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お宮さま  作者: 御鎌倉
3/7

みやまみち

あんまうまくかけなかった

ストーリーには関係ない範囲で調整、過去話にも入るよ


「はっぁ?」


女の子にあるまじき声の由来は、

父からの祖父の過去にまつわる斜め上の衝撃的な告白であった。それは斜め上のもので、昼ドラにありそうな展開ではない、また別の何か。はっきり言うと少し拍子抜けしてしまった。…少々失礼だろうか?


ただ、納得はいっていた。あの雰囲気は異様すぎたのだ。親戚なのに、祖父なのに、そしてなにより、

血が繋がっている、大好きなおじいちゃんなのに、

恐怖を感じてしまった。それが何よりの証拠だ。

 

「おじいちゃんの若い頃の写真ってある?あったら見せて欲しいんだけど、いい?」

「いいよ。」


父の書斎、その本棚の上にそれはあった。


いかにも昭和といった、セピア色の背が

ダブルリング製本のスタイルをしたアルバムが、少し埃の被ったダンボールから姿を現した。


これも同じくセピア色をした紙の上に、貼られたモノクロの写真には異国の街で、大きな五重塔の亜種のような

ものをバックに、軍服を着て帯刀している20代くらいの

祖父がいた。その顔は穏やかで少し笑っていたが、

 左手に包帯を巻いており、事件を匂わせるものだった。

 ……ちょっぴりイケメンかも?


 ★


 12月中頃。冬休みも3分の2が過ぎた頃に、

私はしんしんと雪のふる、しかしつもらない粉雪の

鎌倉駅、そのいつもの場所で北条を待っていた。

  

人は誰しも思うであろう。女子中学生が寒い日に厚着をして、わざわざ外に出るなんて。家で引きこもっていたほうがいいんじゃないの?と。とある玩具メーカーの意識調査もそう言っていると。

こんなすこぶる寒く凍える日に…と思う老若男女諸氏も

あることであろうが、子どもがもはや風の子とは言えなくなった現代においても、現に私はここにいて平気な顔をして人を待っているのだ。

それは、私が精強無比でもなんでもなく、

日々進化する現代技術でできた服を何枚も重ね着し、寒さなど一切感じない、つまりほぼ無敵状態あるからだ。


「おまたせ〜寒いね今日も」

 

いつもとは違った、北条の久しぶりの私服姿を見て、

 懐かしく、心が温まる思いがした。

 

さて、私たちがこんなすこぶる寒い日に、太陽も寒く自分のことで精一杯で、雲間顔を出すのをためらうかのようなこんな日になぜ集まっているのか。答えは極めて単純である。


 遊ぶためだ。いや、遊ぶと言うか、お茶をしに行くの

だ。理由は最近北条と会っておらず、そしてどこかそれが後ろめたい気持ちがあったからだ。


話もそこそこに、駅前にいつも見えるタクシーのうち1台を捕まえて目的地へ向かう。

外とは違って、ぬくぬくとした車内では、寒さによって頭が痛くならないように被っていたロシア帽も、蒸れを発生させる厄介な無用の長物となった。というか、屋内や車内に入ったら普通脱ぐのが定石であろう。パラダイムシフトなど私はしたくない。

  

若宮大路を南下して合流した、由比ヶ浜に沿うように走る国道134号線は、陸と海との中間である砂浜の、

陸への境界線を示すかのような、いわば万里の長城かの

ように敷かれていた。それは不思議なもので、中間地帯。

ごちゃまぜなところというべきか。文化人類学ならば「異」とされるところだ。だが結局は人工物で「異」でもなんでもないかもしれないのだが。


そんな国道134号線を鎌倉湾を右手に東進し、少し行けば

目的地で、そこでお茶をするのだ。

そのお店は万里の長城の内側にある少しおしゃれなガラス張りのカフェの店内で、例に漏れず観光地価格の

コーヒーやケーキを味わいながら、他愛もない会話を広げようという算段だ。


タクシーの支払いを終えた後、不意に来た寒暖差、距離にしてたかだか数mの距離を大げさと言われるかもしれないが、目にも留まらぬ速さで二人動き、入店した。


予約のことを伝え誘導された後に着席し、一息つく。

  

「ここ、お母さんが教えてくれたんだ。」 

「すごくいいね!ネットで見たよりもずっと!

今度お会いしたら感謝申し上げないと…!」

「えぇ~そんなに〜?私には違いがわからないや」

 

二人で建物や景観についての徹底的とも言える賛美をした後、苺ケーキやモンブランなどの甘いもの、そして

中学生にはまだ早かろう紅茶が届いた。

しばらくそれらを沈黙の元、笑顔で賞翫した後、

北条が口を開いた。

 

「最近はどう?」

「遊び盛りのはずなのに活字とにらめっこ…そのうち根暗になりそうで怖いよ」

 

そう言うと、北条は右手で頬杖をつき、目を細めてため息を付いた。

 

 「でも楽しそうだよね、毎日。…いいなぁ何か打ち込めるものがあるってさ」

「夏希だって…いつも水泳部楽しそうにみえるよ。爽やかでいいじゃない」

「楽しくないよ爽やかでもないし。

全く、監督は怖いしさ…というか紗希さ、前より楽しそうじゃない?…刀の本を読み始めてから」


幼年院からずっと一緒の北条の言うことだ。

母親ぐらいには、お互いを理解している間柄故に、

意外とそうであるかもしれない。

 

「あ…まぁ、初めて惹かれるものができたって感じかな。でもそこまででもないと思うな…」 

「そう?休みの前はずっと本読んでたし…その時は、話しかけたら戻ってきた…いや、『帰ってきた』って感じだったから案外そうかもしれないよ…」

 

そう言うと、どこか不機嫌そうな顔をしながら目線を左に移した。

 

…ご機嫌斜めだ。昔からこうすると決まって不機嫌なのだ。特に私が長く相手しなかったり、関わらなかったらこうなる…恋人同士でもないのに。


「…こちら、お近づきの印に」

 

私が食べるはずだったモンブランこと、北条の好物を差し出す。

 

「…別にいいよ…」


一拍の沈黙の後、北条が受け取る。これで機嫌が直るのだ。一時は、ただ欲しいだけと思ったが、こうするのは私に対してだけらしい。


思えば…… 三浦さんと出会うまで、1年生から月に3回は休日に遊びに出かけていた。小町通りから横須賀の街まで。そればかりではない。

小等部高学年から今まで、電車並びに徒歩通学において、

寝坊や体調不良のない限り、ほぼほぼ毎日一緒に学校までの行き帰りを共にしていたっけ。

 

そう考えると、私は北条のことをなおざりにしていたのかもしれない…いや、していた。


「ごめんなさいね」

「べつに…いいですよ…」

 

気づけば暖房の効いた店内で、北条は顔に紅葉を

散らしていた。


寒さを微塵も感じない、そうなるはずのない店内で。


その後、何事もなかったように小町通りで食べ歩きをし、

鎌倉駅で解散。大成功に終わった。

 

帰宅後、私は速攻で図書館での調べ物に加えて、

偶発的な聞き取り調査という幸運に恵まれた結果得た

成果を再度整理し直した。


あらかた調べ終わった資料の量は多くも少なくもない量であったが、重複するものや、検証の余地を残すのものも

あり、選定に時間を要した。

なんとかまとめると共に、どっと疲れが洪水のようにやってきた。

 ふぅ…と、疲れを排水するかのように息を吐いたあと、

 椅子に背をあずけて、真っ白な天井を見つめた。


「相州伝…か…」

 ぽっと、その全てに想いを馳せ、真っ白な天井をスクリーン代わりに、自分の記憶を目と脳という投写レンズを通して写そうとする。

 

長さは反りは厚さは…?


「わかんない…どうして……?」 


 

それらの特徴をいざ、文字に起こした後、

投写…つまり見える化しようとするとできないのだ。

なぜならば、言葉で理解していても、それを見た回数が少ないからだ。いわば経験値不足。

 

今思えば、現物を一度しかみていない。あの一回のみ。

忘れもしない、あの一回。見たいと思ってももう二度と見れないかもしれない、あの逸品のその一回。


会いたい…いや、逢いたいのかもしれない。

  

僅かな期待に胸を膨らませニュースや新聞を

確認すると、未だに行方不明らしい。

 

会いたい。ただそれだけなのに、叶わぬであろう、

もう会えないかもしれない現実に落胆する。

 

悲しんでいても仕方がない。類似品をさがそう。

こんな時、高度情報化社会のメリットが活躍する。

オールドメディア以外のいち個人でも情報を発信できる世の中、情報の数としては少なくないはずだ…正確性はおいておくとして。


と、その前に相州伝のおさらいを。

 

北条時頼の時代に、備前伝と山城伝の刀工が鎌倉に

招かれ、その中で新藤五国光を祖とする相州伝は、様々な戦いで露呈した日本刀の弱点を改良した結果、製法が複雑になり、刀工数も一番少ない。


 それ故か、最強の日本刀なんて評価する人もいる。

 比較的ページ数少なめの本しか読んだことがない故に

 何とも言えないのが現実であるが、そうであるならば

 どこか嬉しい気分になるのは否めない。


一通りの脳内での整理を終えて、スマホで検索し、

 画面にのめり込む。

  

 あった。相州伝、なかなかに似ているものが。


 その名も、太刀銘 則重。

 

 

翌日


「相州伝の実物を見に刀剣展示館に行きます。それで、

 色々教わりたくて今日来ました。」


 私は今、例の鬱陶しがられている先生の研究室にいる。

理由は簡単。彼が文化財に少々詳しいからだ。


そのことを思い出した私は、昨日のうちに身支度を整え、偶然を装って遭遇し、話しかけたのだ。


「ところで…実物を見る意義。わかっていますか?」

「いいえ…あまり詳しくは。見たほうがイメージに起こしやすいといったぐらいです。」


「その調子じゃ、返り討ちにあってしまいますよ。」


 そういうと、すこしため息をしてから、やれやれという顔で私の方へ向きなおした。

 

一方、私はというと、思わぬ反応に、少し背を真っ直ぐにして身構える。

 

「といいますと…?」

「今の貴方には観察眼がない。それではわざわざ遠くまで行って見るだけになってしまう。見つけられるはずのありとあらゆるものが見つけられずもったいないです。」

「すみません。」 

「せっかく私のところに休みを犠牲にしてまで来てくれているんです。とっておきの方法を教えましょう。」

「はい…メモとってもいいですか?」

 

先生は快く頷くとゆっくりと口を開いた。

 実物を見る意義は、デジタルを介さずそのまま見た結果を感ずることである。また、その観察をするにあたっては、いろいろな角度から見ること、見るまでの待っている間に製法を考え、前後時代のものと比較してみること。

触らせて貰えるならば、破壊行為に抵触しない範囲で

五感を使ってみること。


といった感じだ。流れを追うなど基本的なことから

型式学チックな専門的な話などを一通り聞いて、お礼を言い、帰ろうとしたときに呼び止められた。

 

「あぁ藤原、お待ち。言い忘れてたことがありました。」

「いい意味の変態になりなさい。」 


いい意味の…変態?


「…」

「…」


謎の沈黙。空気が張り詰めているわけでもなく、微妙な空気というわけではない。ただ理解ができなかった私が生み出したことは確かだ。その証に先生は普通の顔をして微動だにしない。

 

「………はいっ!ありがとうございます!」

 

こういうときは感謝を伝えるのが無難だ。

 目が覚める。いつもの天井。

 着替えて筆記用具とメモ帳、単眼鏡を携帯性の高い小さなカバンに入れ、両親への挨拶を済ませて家を出、駅につくと、横須賀線のホームに電車が滑り込んでくる。

私が跨ぐべきドアが速度を落としながら、ゆっくりと近づいてくる。そしてあたかも「入ってください」とばかりに目の前に姿を現し、ゆっくりゆっくり、安全な速さでドアが開くと、車内の暖気が漏れ出て、私の頬を撫でる。

それはすぐに全身を覆う膜となり、快適さをもたらした。

 やがてアナウンスの後に扉が閉まり、動き出す。


 いざ、刀剣展示館へ。

 


 

 

次は近々に!

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