こちら冥界、転生スキル相談窓口です~あなたのご希望のスキルはなんですか?~
今日もまた私の職場の扉が開かれる。
いらっしゃいませ。今日はどうされましたか?
この世界であなたが来世で生きていくための相談事ですか?
そちらに御用でしたら専門の係をご紹介いたします…
人生相談はこちらでは伺っておりませんが、輪廻転生後のご希望の「スキル」ならこちらで承っていますよ。私たちの世界では生きているものすべてが生きていくための様々な「スキル」という能力を授かって生まれ生活をしています。はい、この世界に存在するすべてのモノは何かしらの「スキル」を持っているのはご存知ですよね。あら?知らない?前世の記憶はいかがされましたか?え?覚えていない?あらあらまぁまぁ…えーっとあなたの前世は…あー…そういうことですか…これでは覚えてませんね。じゃあ説明させていただきますね。え?自分の前世が気になる?まぁ言い方は悪いのですがこれが分かりやすいのであえていいますが、ぽっくり逝った時にすべて忘れちゃうんですよね。後あなたの記憶はこちらから一切の開示できません。申し訳ございません。この世界の個人情報は本人であってもこちらでお教えすることはできない決まりとなっておりますので。どうしてもと言うならあちらの住民課の職員にでもご相談ください。私ではお答えできる権限がございませんので。
えーでは改めて「スキル」の説明を…それよりも前世?もううちの課まで来たのですから過去のことはどうでもいいじゃないですか?それよりも今後のことですよ。そんな後ろ向きで生きていけると思ってるんですか?あなたはこれから現世に行くんですよ?過去を引きずっても仕方ないでしょ?さぁ未来に向かって進むのです。明るい未来のためのスキルをお持ちになって明るい未来をつかみ取るのです。
ふー。という訳で先ほどの方にはさっさと希望を聞いて「スキル」を付与、転生課に行ってもらいました。ふぅ、面倒なことに首を突っ込んでこないでいただきたものですね。しがない職員の私に噛み付かれたところでどうしようもないのですから。
ちょっと時間が空いたので私のことを少しお話しましょうか。私はこの箱庭世界に縛られた魂を循環させる際にそのモノが持ついわゆる「スキル」を会得するための相談窓口の職員をやっています。名前はありませんからお好きにお呼びください。私?私はなんでしょうね?手や足も感覚的にはありますがこの相談所を通り過ぎるモノたちの記憶に残るものでもないので決まった形なんてものはないんですよ。入ってきたモノが望む形に相手に見えるような姿で見えるようですね。例えば入って来たモノが前世でヒトという形にあこがれをもって部屋に入って来たとするとヒトの形に相手に映っているらしいですね。イケメンとか美人とかに見えていると嬉しいのですが、見えない私にはどうでもいい話ですね。私自身この部屋の小さな鏡を見たことはあるのですが全く写らないんですよ。だから自分の姿がどうなっているのかなんて未だにわかりません。今の私はあなた方の目ではどう映っているんでしょうね?そもそも自分自身というものが存在しているのかどうかすら怪しいものです。上司の思念体のかけらなのかもとか考えたこともあります。こうやってぶつぶつと独り言を言ったりできるので自我というものはもっているのかもしれませんね。
さらになんと、私はこの部屋から出ることができません。試してみると出ようとしたドアからまた中に戻ってきます。つまりですね、私がこの部屋のドアを開けるとその向こうに私の仕事部屋がありまして、振り返ると私の仕事部屋があります。もしかしてこれが私の持つ「スキル」というものなのかもしれませんし私自身が上司の「スキル」なのかもしれません。では、なぜ私が外の世界を知っているのかと言うと、館内の地図が私の机にありまして、外の世界のことは仕事部屋に過去のクライアントをとりこむ世界を見ることの出来る道具があるのです。ちなみに未来は見ることができませんよ。
さっきから「しれません」と言う言葉ばかり使っていますが考えたところで答えなんて私にたどり着くことができないんですから。たぶんとかの推測で自分を納得させるのが関の山なんです。結論としては私にとってはどうでもいいことですがね。
そういえば入居者絶賛大募集中という謎の回覧板が住民課から出ておりました。そもそも役所内の回覧板で募集する必要もないと思うのですが…誰が参加するんでしょうね?そもそも出れるの?さらにうちは既住民の転生課ですので全く関係ないという訳ではありませんがどうしてうちにもきてるのやら。内々で募集するくらいなら職員増やして出張所でも作ればいいでしょうに。ま、他課の事情なんてどうでもいいことでしたね。さっさと既読にして次の課に送っておいてもらいましょう。
あなたがもしこの箱庭世界に来ることがあればぜひこちらの相談所にお立ち寄りください。ご希望のスキルを身に身につけてこちらの世界を満喫してみませんか?今なら取りたい放題ですよ。夢と希望ともうそ・・・ゲフンゲフン、失礼しました。改めて夢と希望の異世界ライフと言うやつですね。本当に人口不足が深刻化しておりまして。いろいろと理由はあるのですが、今は控えておきましょう。
ただし一度入ったら出られるかどうかは分かりませんが…それよりも
あなたが望んだ生き方もできるとも言えませんけどね。
だってこの箱庭世界に存在しているすべてのモノに「スキル」が備わっているのですから。