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Voice②
今日も音がする。
私の嫌いな音だ。
逃げたくても逃げられないその音は、
金属と金属が擦れて火花を散らす。
或いは錆びた鉄の苦い味。
その音は耳を付きまとい、
血液のように細部を循環し、
それは私の体の一部なのかもしれない。
この巻車が普及した世の中で音を遮断することはできない。
耳を塞いでも身体の中から音は湧く。
目を閉じても巻車が暗闇から迫ってくる。
世界の血液であるかのような巻車から逃れることはできない。
逃れることができるとすれば、きっと天国か地獄だろう。
音が怖くて逃げてたどり着いた先がここなのかはわからない。
音は消えない。
目の前の怖さから逃げることはできない。
でも、だけど、
光の傍にいると恐怖が和らぐ。
音は消えないが震えが治まる。
あたたかい。
この感覚は私の中で初めてだ。
知識では知っているけれど、
この感覚は私の中で初めてだ。