灰都イギリス
前書き
本書は、プロキシマ社に世界各地から送られてきた様々な文書や絵などを、誰にでもわかりやすくかつ世界のどこにいても読むことができるよう編纂したものである。
本書を読むにあたっていくつか注意事項があるため、この場を借りて説明をしていきたい。
まず初めに世界観について触れておこう。
西暦1914年、世界大戦が勃発するかどうかの緊張した時期に、世界各地を突如様々な天災が襲った。
先進国の機能は麻痺し、発展途上の国はそのまま滅びてしまったところもある。雷、台風、火山の噴火、津波等、天災の種類を挙げるとキリがない。
人々は怖れを込めてそれらを「裁き」と呼ぶようになり、年号も「裁き」を境に「AJ」(After Judgementの略称。「裁き」以後という意)と呼ぶようになった。
これは世界共通の年号である。
産業革命を経て電力文化を作り続けていたイギリスは世界の最先端を行く技術力を持っていたが、「裁き」の轟雷により文化の機能が麻痺。
電力文化は衰退し、電力に代わる新たな技術「巻車」が開発された。
「裁き」から20年後、本書はここから語っていくことになる。
電力は使われなくなり、巻車文化が浸透し始めた世界で、人々は様々な出来事を目の当たりにする。本書を読み終えた後、あなたは必ずや何かを得るものだと私はここに断言したい。
語る中で、登場人物の心境を描いた「VOICE」という頁が各所で登場するが、これは登場人物の心境を描くことでその人の価値観等をより深く理解できるものと考え、間章のような形で場を設けさせてもらった。
「VOICE」を読み終えた後、あなたはおそらくその人物を見る目が少し変わってくるだろう。本書を手に取った別の人とああでもないこうでもないと語り合っても良いだろう。きっと新たな視点ができるかもしれない。
長々と書いたが、まずは本書を読み進めてみてほしい。そして不明な点があればここに戻ってきて世界観の見直しと本書の読み方を確認してくれればと思う。
今回の舞台は「裁き」の轟雷を受けて20年後のイギリスである。
物語は私の親友である、クリート・ウェルス・ジェインが祖父からの不可思議な手紙を受け取ったところから始まる。
そして祖父の行方を知るために動き始めた矢先に、クリートは少女アニーと出会い、そこからロンドンの大混乱に巻き込まれていくことになる。
巻車文化の最先端を行く英国で人々は何を思ったか、またどんな出来事があったか等を、物語を通して理解していただければ幸いだ。
それでは、また後書きでお会いしよう。
あなたの隙間時間に、一掬いの充実と興奮を。
プロキシマ社代表、ネイゼル・アークトレント・エスティナーゼ
主な登場人物
・クリート・ウェルス・ジェイン
本編の主人公。
金髪碧眼、長身で痩せた体格をした24歳の青年。
太陽神と人との間で生まれた隠し子の末裔。あらゆるものを創造する力を持つ。
・ネイチェル・スパンティニョース
愛称ネイト。黒髪で眼鏡をかけたクリートの専属メイド。
あらゆる言語を理解し話す力を持つ。
・メキング・ウェルス・ジェイン
クリートの祖父でありジェイン社の社長。
クリートに手紙を書き残し行方不明となる。