(21)
攻撃された感覚が確かにあったビクターは、慌てて立ち上がると、両手から全身を隈なく見回す。
無傷だが、左半身を中心に大きな痛みを感じ、脇腹や肘、肩に触れていく。
そのまま、服の下に仕舞っていたペンダントに手が当たった。
というよりも、手がそこに持っていかれた様な感覚であり、徐に服の上からそれを掴む。
そしてふと、コアに見せられた世界が頭に浮かんだ。
不思議な事に、その世界を初めて見た時とは視点が違っている。
自分であろう幼児がこちらを見上げ、背伸びをしながら笑顔で両手を伸ばしていた。
その光景が引き延ばされて消えてしまうと、胸が痛み、目が熱くなる。
泣いている場合ではないのに、止められなかった。
悔いや恐怖、悲しみが急に押し寄せ、全身を埋めようとしてくる。
立っているのも辛く、足から崩れ落ちそうになるのだが、実際は漁船でただ立ち尽くしているだけだった。
ビクターは目を見開くと涙を拭い、負の感情で震える手足を振って正気を取り戻そうとする。
集まる皆の視線も余所に、押し寄せる不安がその動作を繰り返させた。
そこへコアの低い嘲笑が皆を振り向かせると、再び鮮明なスナップ音が鳴り響く。
「伏せろ!」
ビクターは周囲に放つと、反射的にピストルを敵に向けた。
視界はこれまでとは違い、淡い水色の光に象られた赤目の陽炎が見える。
手前に迫る2体が閃光で弾け飛んだ。
だが、続けて押し寄せる複数体がすぐそこまで来ており、ビクターはピストルを咥えると槍に持ち換える。
最長に伸ばして握り締め、向かいくるそれらを一斉に薙ぎ払う一心で振ると、身体から血管を這う様に黒い陽炎が放出された。
それは忽ち槍に巻きついて這い伸びると、ビクターが大きく横振りすると同時に先端を越えて伸びていく。
進行を大きく歪められた敵は、漁船の端に追いやられると、そのまま黒い陽炎に一纏めに包まれてしまう。
ビクターは敵の攻撃を断つと、留めに白銀の閃光を連射した。
射撃が治まると、周囲の皆は漸く事態を目の当たりにする。
閃光の力によって、敵の陽炎が鏡に包まれていた。
それらは砕けていくと、破片も全て大気に溶ける様に飛散し、消えてしまう。
コアは、違う動きを見せるビクターに怒りを轟かせた。
どの手段も理想に繋がらず、憎悪がみるみる腹に湧いていく。
また巨大な砲弾を生み出そうとしているのか。
大人達はそれに抗える力が残されておらず、ただ見上げる事しかできない。
フィオは彼等を奮い立たせようと、コアに鏡の双眼を尖らせては、飾りを手に呼びかけた。
「ビクターもシェナも来て!
グリフィンも、おじさん達も皆よ! 早く!」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
気が向きましたら是非