(19)
なんて具体性のない提案だとでも言いた気に、シャンは肩越しに無言で鋭利な眼を向ける。
だが、その性分も今ならよく分かるフィオは、先を促されていると見た。
「大地や海も、空も、守る務めはミラー族や空島の竜達だけにあるんじゃない。私達、人にだって大いにあるのよ。だから人の力も必ずいる!」
フィオは、シャンに母の飾りを突き出した。
淡い白銀に光り、合わせ鏡になる数多の表面には、豊かな自然の景色が流れる様に映し出されている。
「これは私達の責務でもある!
シャン、筆頭である貴方が今、これに触って!
そうすればまず、海の力の路が大地に伸びる!」
シャンは、彼女の懸命な面持ちに呆気に取られる。
互いに同じ眼を合わせていながらも、その奥に広がる強い想いはミラー族のものではなく、人間のものだった。
先代の望みは、この子の望み。
この子の力をただ使うのではなく、この子が率いる全ての力を使って終わらせ、未来を迎えるという事だ。
硬過ぎる頭だと、我ながら呆れてしまう。
そんな感情を顔に出すまいと、突き出された飾りを受け取っては、肩の装飾に当てがった。
そこから伸びるベールの様な光の筋に、フィオは鏡の瞳を大きく見開く。
その優しい流れや手触りは、母と接触していた時のものと同じだ。
フィオは光を辿って勇ましいシャンの顔を見つめると、小さく微笑む。
「フィオ!」
不意に飛び込んだ声に2人ははっとし、頭上を見た。
そこに被さる巨大な竜の影に目を凝らした途端、青い光の柱が降り注ぐ。
海中の闇が光の柱の分だけ退けられ、視界が鮮明になった。
フィオは、そこに見えた影に向かってシャンから大きく離れると、飾りを手に両腕を目一杯伸ばす。
「ジェド!」
彼は髭を掴んだまま潜ると、フィオを抱えて激しく浮上した。
これを見届けたシャンは、先の判断を彼女に委ねて槍を握ると、激戦区まで突き進んだ。
竜の髭に引き上げられた2人は、頭上に乗せられると角を抱える。
海中の異変を嗅ぎつけた竜とリヴィアは、動きを見せ始めた仲間達を目指して飛行速度を上げた。
リヴィアは腕を振った拍子に出現した鎌を握った途端、フィオの呼び声に振り向いた。
彼女は竜の頭から手招きしており、鏡の飾りを突き出してくる。
「これに触って! 貴方の力がいるの!」
フィオの考えを察したリヴィアは、声に引き寄せられる様に2人の前に着地した。
リヴィアは迷わずフィオの手を取ると、飾りと共に両手で力強く包む。
煌々と光る青い瞳が緩やかに閉ざされると、重ねた手元が青白く灯り、細い雷が瞬時に音を鳴らして消える。
「我等の導きもまた、貴方達の未来に……」
リヴィアは呟くと、風を切って行ってしまった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非