(16)
強風が漁船とコアの距離を広げていく。
宙で攻撃し続ける守護神の竜は、空島で見た呪われた姿の様に負傷していた。
我を忘れて我武者羅になる姿に、リヴィアをはじめ、仲間の精霊達が鎮めようと眼光を放ちながら接近する。
精霊達や竜の青い血飛沫が時折、船体や皆の肌を打った。
コアは炎や牙の攻撃を上半身に受けながらも、下半身では防御に努め、浮力を維持しようと懸命になっている。
一時退避していた海洋生物達が、鏡の蛸を筆頭に墨を固めた錘を生み出していた事で、海底に引き摺り込もうとしている影響だった。
この時、武器を掴んで前のめりになる漁師達が、コアの腹が曝されている事に気付くと、急所とされる蠢く光の数々に弾と矢を放つ体勢になる。
グレンがビクターの肩を引くと、例のピストルとコアに目を往復させながら言う。
「そいつで狙え! お前ならやれる!」
ピストルの閃光ならば、この距離でも届くに違いない。ビクターを中心に攻撃を仕掛け、射程距離を改めて詰める。
そう判断したグレンを聞き入れた周囲は、動き出した。
「シェナ、頼めるか!?」
グリフィンは彼女の小さな身体に触れて訊ねる。
指示を受けた2人は力強く答えると、ビクターが舳先に颯爽と登り、ピストルを抜いた。
途端、黒い陽炎が彼の身体を船首に巻きつける様にして現れる。
これにカイルが近づくと、まるで枕を叩く様に陽炎に触れた。
冷気のクッションの様な感覚が奇妙でならず、眉を寄せる。
「何だこいつ。新入りか?」
ビクターがその疑問に振り返るや否や、周囲が声を上げた。
中でもシェナのそれが鋭く、突風が大きく漁船を方向転換させ、舳先がコアに真っ直ぐに向く。
「あんたの目、何!? 何が見えるの、それ!?」
一体何の事かとビクターは首を傾げる。
皆は、彼の右目が水色に灯る光景に身震いした。
水色とはいえ、灰色や黒、白や紺と変化を見せる不思議な瞳をしている。
だが本人は、これに眩しさを感じなければ痛みもなかった。
ビクターはそっと右目に触れてみると、陽炎の手触りと同じで柔らかく、冷たいものを感じた。
右半身を見ると、黒い陽炎が棚引いている。
「ビクター、前!」
ジェドの怒号が飛ぶと、他の皆も同時にコアに向く。
ここまでフィオの浮上をじっと待ち構えていたジェドだが、どうにもこの位置では死角が多く、視野も狭い。
それに、すっかり匂いに頼るようになっているが故に、周辺の生物達の血の臭いで彼女を嗅ぎつけられなかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
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