(15)
「待て……待てオルガ!空も尽きかけているというのに!」
「信じろ。お前の眼に狂いはあらん。本心で導け」
オルガは、この瞬間的な出来事の間に、母としての姿と、筆頭としての姿を操って見せる。
シャンは受けた言葉を未だに信じられず、冷静さをすっかり欠いていた。
それが本当の彼なのかもしれないと、フィオはその横顔を見守る。
「会えて良かった……娘を……未来を託したぞ……」
海に浮かぶ微笑みが、儚く白銀の光に掻き消される。
フィオとシャンは咄嗟にオルガを引き留めようとすると、互いに伸ばした手が重なった。
辺りにはもう、世界を荒らすコアの憎悪以外に何もない。
「何を言われた!? 力は!? 何か貰ったのか!?」
フィオは暫し目を瞬く。彼の力強い揺さぶりは、まるでジェドの様だ。
「フィオ!」
「おじさん!」
シャンはフィオの急な言葉に石になる。
今、何と言ったのだろうと。
「だってそうでしょ? お父さんじゃないんだから。
それより、そんなに怖がらなくていいわ。
何も慌てないで、大丈夫よ」
「なっ……!」
最後の言葉にこそ首を捻じ曲げる。
オルガがやたらと口にしていたそれに、馬鹿の1つ覚えだと罵った事が蘇る。
その言葉を娘が貫き、何かに意を決した表情を突きつけてくるではないか。
「コアへの路を作るわよ! 早く、行って!」
フィオは、圧倒的に泳ぎが速いシャンの背中に回ると、彼の両肩を掴んで泳げと促す。
「急いでおじさん、漁船が壊される! 終わらせるわよ!」
「……親子共々っ……止めろっ!」
シャンは吐き捨てるとフィオを支え、素早い泳ぎを見せた。
まるでジェドが投げた槍の様に、流星の一直線が海中を進む。
これが楽しくてならないフィオは、事態も忘れてコロコロと笑い声を上げた。
それを背後で感じるシャンは、何かを思い出した様に眼を見開くと、頭の中で何度もフィオの笑い声を聴き直す。
何度も、何度も、何度も繰り返し聴きたくなる。
そして素直にそれが可愛らしいと思えると、視線のもっと先に広がる未来が明るく見えた様な気がして、ほんの小さく口角を上げた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非