(14)
真っ直ぐな母の声は、どこか棘の様にも感じ取れた。
痛みを与えるのではなく、射止める様な、貫く様な力強いものだ。
受け止めているのも束の間、景色ががらりと変わり始める。
先ほどまで見ていた、美しく懐かしい晴れ晴れした世界が、真上に引き延ばされていくと、現実の暗い海が戻ってくる。
「フィオ!」
鋭い声に、フィオは大きく振り向く。
姿はないがシャンの声だと、辺りを探した。
すると母はそっとフィオの顔を取ると、聢と目を合わせて微笑む。
「貴方は人間よ、フィオ。貴方の友達も、皆そう。
だから大地を救えるのだし、同時に傷付ける事もできてしまう。
大地はずっと、貴方達人間の傍で生きてきた。
我々海の神や空の神よりも、ずっと近くで。
共に在ってきたからこそ、よく似ている」
母の手が離れていくと、フィオは顔を強張らせる。
そこへまた、シャンの声が飛び込んだ。
母はそれに構わず、フィオに飾りを差し出した。
「大地が犯した事の見返りは大きい。
だけど地球はまだ生きている。
この先も、貴方達の手によって、愛によって」
「オルガ……!?」
シャンが漸く、荒海に輝きを放ちながら浮かぶ2人を見つけると、フィオに飛びついては先代に眼を見張る。
オルガはその面持ちが何とも言えず小さく笑うと、フィオに力強く向き直った。
「また聞かせてあげなさい。
思い出させてあげなさい。
笑顔や、楽しさを。
それらの多くを、貴方達人間は知っている。
大地は再び、生かされる」
「あっ……待って! 待ってよ、お母さん!」
母は全身から白銀の光を放つと、いよいよ水に溶け込む様に輪郭を失くしてしまう。
これに慌てたシャンは、まだどうにか形を保つ彼女の肩を掴んでその名を呼ぶ。
頑なな性分であっても、先代の前では違った。
突如として失われた大きな存在から託された、数々の生命。
先代との力の差を感じてならず、今の事態に本当は悲鳴を上げたいくらいだった。
人間と結ばれようなど正気の沙汰ではない。
どうか改めよと、どんな手を打ってでも先代の選択を止められていたとしたら。
そんな、考えてもきりがない事をどれほど思い続けてきたかは知れない。
未熟な自分を、一族を、置き去りにしないでもらいたかった。
その感情は幾度となく人間に対する嫌悪感に変わり、しかしそう在るべきでないと思い直してきた。
この繰り返しがまるで呪いの様に苦しいのだと、ただオルガを呼ぶだけの事に全て込めてしまっていた。
「シャン、お前は私の誇りだ」
殆ど消えかけるオルガの手が、傷だらけになった彼の逞しい肩を掴む。
かけられる言葉にまるで子どもの様に慌ただしく首だけで否定するシャンを、フィオはじっと見つめていた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非