(12)
コアと竜の争いを前に、シェナは、漁船を引き離すよう声を張って風を呼び起こす。
射程距離が開くのは惜しいが、荒れ狂う両者の反動が大きいあまり、漁船が砕かれそうになっていた。
弱るコアは、尚もガラクタを降らせ続けている。
人々はこれに打撃を受け、戦力が落ちていた。
フィオは、戦の海が自らを呑もうとする恐怖や、皆から遠ざかる途轍もない寂寥感に包まれる。
深いところまで叩きつけられると、感情が気泡になって瞬く間に流れ去った。
どうにか流れに身を任せながら、海か涙かに変わる気持ちを整えていく。
見渡す限り真っ暗な辺りに時折見えるのは、白銀の光の数々だ。
ミラー族と海洋生物達の光に違いないと、状況を見るべく、首だけ流れに逆らいながら海面を見上げた。
そこにはコアの怨気や怒りの感情、竜との乱闘が尚も続いている様子が、水面を介して伝わってくる。
遠くには青い炎も見える。
それらが大きく歪む様子から、シェナが強い風を吹かせているのだろう。
身体は自分自身のままだが、違いは確かにある。
息ができ、水を掻けば滑らかに進む理由は肌にあった。
目を凝らすと、銀の光が細かな筋を描き、靴に覆われる足先に向かって消えていく。
半ば自分を失くし、残りを新たな力で埋めたこの身体でできる事をしようと、横転していたところから立位に変えた。
弾き飛ばされてしまった母の飾りを、隅々まで探していく。
ひと掻きしては調べる事を繰り返している内に、緊張と不安に潰されそうだ。
まるで、自分がここにいる事に誰も気付いていない様だった。
それだけ、ミラー族や海洋生物達が近づいてくる気配がしない。
感知する力を失くしてしまったのか、或いは尽き果ててしまったのかと鼓動が全身を打ち鳴らす。
助けたい。
ただその一心で飾りを探し続けていると、ぼやけて形にならない声の様なものが聞こえた。
それに振り向いた途端、淡い白銀の光が迫ってきた。
眩いそれに忽ち手を翳すと、まるで眠りの世界へ誘う様に、瞼が無理矢理下ろされていく。
唐突な暗闇に、これまでも体感してきた波紋が広がり始めた。
だが今回は、より小刻みに広がり、どこか慌ただしく見える。
やがて、それらが齎したのは、太陽が降り注ぐ静かな大海原の景色だ。
「フィオ」
確かに聞き覚えがある声に、鼓動が更に速まる。
込み上げてくる例えようのない感情に、瞳がただただ震えた。
世界が大変である事、友達や守ってくれる多くの家族が危険である事、島が沈みかけている事、そして何より、失われるべきでない神が失われようとしている事から、どう免れるべきか。
知恵や力の欲しさに、声を張り上げた。
「お母さんどこ!?」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
気が向きましたら是非