(11)
「お前また!? いつ登ったんだよ!?」
ジェドは、コアの衝撃によって漁船内に弾かれたフィオの手を掴んだまま、目を見張る。
ビクターは、これを説明する整理がつけられなかった。
「さっきだ! あ……30秒くらい前だ!」
「おかしいでしょうが! あんた今の今まで、あたしをここで捕まえてたでしょ!?」
「あー……あー……ああもうっ!
事情があんだ! これがややこしいんだよ!」
ビクターはピストルを振って見せる他はなかった。
その時、コアの両腕が漁船に接近するのに合わせて憤りの叫びが降りかかる。
圧力あるそれに、皆は床に押しつけられてしまう。
そこに、僅かな回復を経て現れたのは守護神の竜だ。
大きく飛翔すると大口を開き、牙をコアの仮面にめり込ませる。
グレンは荒れ狂う両者を見上げていると、コアの腹に隙を見てライフルの照準器を覗いた。
察した他の大人達がそれに続くと、射撃音がコアと竜の悲鳴で混ざり合う。
連続的に起きたそれは、相手が魔力であろうと、確実に打ちのめされていった。
コアは隙を突かれた苛立ちと、喰らわされた激痛に地響きを起こす。
だが、人々はこれに怯む事なく、船縁を掴んで体勢の維持に努めた。
フィオはそれでも力が足りないと見て、ジェドの腕を振り解くと、飾りを求めて船縁をよじ登る。
「止せ、フィオ!
ミラー族のもんなら、向こうが探せるだろ!」
「お願いジェド、絶対に見つけるから!」
そこへコアと竜が起こした揺れに、フィオは足を滑らせてしまう。
ジェドは間一髪のところで腕を伸ばすと、彼女は外側へ垂れ下がった。
これにグリフィンとマージェスが駆け寄り、フィオを引き上げようとするのだが
「お母さんがいるのっ!」
フィオは叫ぶと、懇願の涙を散らす。
銀色に輝く美しいそれは、呆気なく荒波に消えてしまう。
「お母さんがいるから放してっ! お願いっ!」
事態にシェナとビクターも駆けつけ、フィオに腕を伸ばす。
ジェドの目が激しく震えだす。
海に母親がいるのは、彼女にとってはもう自然な事だ。
母親に会いたいと願うそこに、何か答えがある。
ふと、ビクターの言葉が過った。
ただここで共にいる事だけが、守る事ではない。
決して、フィオの邪魔をしたいのではなかった。
「大丈夫よジェド、信じて!貴方は後で私を見つけて!
見つけられるわ!」
周囲は激しく否定しながら、フィオを引き上げようとする。
しかしジェドは、彼女が浮かべる鏡の双眼に晴天の景色を見た。
彼女がミラー族に変わり始めた時からずっと見てきた景色に、焦りと恐怖に乱れた心が整えられていく。
そして、駆けつけた皆に離れるよう告げると、フィオの目を見つめたまま静かに頷き、銀の光が這う冷え切った腕を、改めて両手で掴み直した。
「……探す。絶対にっ!」
フィオの緊張が、花を咲かせる様に解れていく。
その頬に伝う鏡の涙は、細い銀の光に変わると肌の至る所に迸り、人魚である事を証明する様に鱗を際立たせた。
それに打ちひしがれるまいと、ジェドは歯を食いしばって頷き、フィオを手放した。
ビクターとシェナの叫びが遠ざかる中、フィオは吹き荒れる風に攫われる様に横殴りになり、荒波に呆気なく呑まれていった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非




