(10)
シェナに続き、フィオやジェドもビクターに瞼を失う。
一方、大人達は慌ただしく彼に身構えた。
身体を砂やマグマに変えるそれを、恐れない者などいない。
そんなものがビクターの半身を覆いながら揺らいでいるのだから、武器を向けずにはいられなかった。
「違う、待て! 俺だって何がなんだか」
慌てて皆を抑えるビクターに、グリフィンが近付いてみる。
彼は周囲に武器を下ろすよう促すと、恐る恐る陽炎を調べた。
触れても何も起こらないそれは、まるで冷風に当たっている様な感覚がする。
そのままビクターの身体に触れ、安全を確かめていると、リヴィアの声が落ちた。
「その目は皆を導く……恐れるな、ビクター……」
彼女の戦意に満ちた顔は鋭いが、淡い眼光を浮かべると共に口元を綻ばせると去ってしまう。
その先では、コアの猛り狂う悲鳴が旋風の様に荒れ吹き、漁船が振動した。
この時ビクターは、その異様な怒りが、主に自分に向けられている様に感じてならなかった。
今の自分の左半身には黒い陽炎が靡いており、この姿がどうもコアを刺激しているのだろうかと考える。
「喰ってやる……喰って……終わらせてやるっ!」
コアが言葉を取り戻すと、哄笑を一帯に轟かせ、天を仰ぎながら、巨大な身体を広げる。
まるで夜空を思わせるそこに巡る灰色の光の数々は、減少する気配がない。
ビクターは再びコアの陽炎を感知すると、周囲に構えるよう放ちながらコアを見据える。
迷わず例のピストルを抜くと、もう一度、あの歪な空間を呼び起こした。
『右から左』
ぼやけた声で囁かれた指示を信じて聞き入れると、ビクターは固められてしまった仲間の合間を縫って床を蹴り、船縁に踏ん張った。
そこから真横へ白銀の線を描く様に、赤い眼光を浮かべる敵を順に撃ち消していく。
照準を確実に合わせられる事を褒められてきた。
その理由が、今なら手に取る様に分かる。
最後の1体が至近距離まで迫ると、コアと同じ熱を帯びた眼光を増幅させて威嚇してきた。
これに怯まないのは、身体を包む黒い陽炎がいるからだ。
この時、射撃を止めて拳を握ると、迫る敵の顔に一撃を与えた。
拳に巻きついて揺らめく黒い陽炎は、力を何倍にも変えて相手を打ち消してしまう。
瞬く間に敵を片付けて数十秒が経過した。
早く環境を戻さねばと焦るところ、ピストルの側面の不可解な数字の異変に気付いた。
点を挟んだ3桁のゼロの表示の代わりに、数字が目まぐるしい速さで動いている。
赤色をしたそれらはカウントダウンしており、更に焦りが込み上げた。
一体何が起こるのかと、ピストルの至る所を雑に触り探す。
そこへまた小さな笑い声がしたかと思うと、片手が勝手にピストルの上部に移った。
手は導かれるままスライドを引くと――鉄を打ち鳴らした様な巨大な音が轟き、周囲の皆や世界が動きを取り戻した。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非