(9)
ジェドがリヴィアと共に漁船に戻ると、またしても激しい揺れが襲いかかる。
皆が海を振り返った途端、水飛沫の壁が高く上がると、コアが再び浮上した。
シャンディアの引張力が断たれ、それを追う様に伸びたシャンの鎖が間に合わず、呆気なく海に消えてしまう。
コアは片目にジェドの槍を残したまま更なる熱を放つと、槍を一瞬で溶かしていく。
マグマはコアの仮面を伝うと、海に落ちる最中に石になった。
皆は、降る火成岩に沿ってコアを見上げると、仮面の亀裂が増えている事に気付く。
「被ってるやつを砕いてやればいいのか、リヴィア」
ビクターが、宙で睨みを利かせる彼女に訊ねる。
リヴィアは斧を掴み直すと、険しい顔のまま小さく頷いた。
「元は身を自在に膨らませるドワーフだ……腹に溜めた怒りを拭い、光を思い出させんと、使者である蟲も戻らん……だが、一度纏った鋼の様な闇は、そう易々と打ち砕けん……」
それを耳にするなり、皆は顔を強張らせる。
フィオはもう一度、棘の攻撃を出して覚醒させようとした。
ところが、身体の何処を触れても、辺りを見回しても、飾りがない。
焦りが滲む中、ふと、攻撃を放った際の衝撃を思い出した。
海に落ちたに違いないと、慌てて船縁から身を乗り出す。
「フィオ!?」
シェナが慌てて駆け寄った時には既に、フィオは船縁に攀じ登っていた。
「見つけて来る!
あれがないと、止められないわ!」
海に飛び込むなどとんでもないと、シェナは頑なに彼女を引き止める。
その横から迷わずジェドが腕を掴みに割り込むと、コアが起こした高波が漁船を激しく打った。
シェナはその衝撃で宙に弾かれてしまう。
傍にいたビクターは反射的に彼女を追い、海への落下を阻止しようと、飛び込む様に両腕を伸ばした次の瞬間――黒い陽炎が、腰のピストルから上半身を包む様に這い登り、彼の両腕を伝って手先から糸の様に伸びた。
ビクターは状況に目を疑う。
まるで自分の手が、そのまま伸びている感覚だった。
どう見てもシェナには届かない状況だというのに、確かに、シェナに届く気がしてくる。
やがて、船縁を越えかけるシェナの服に触れたのを感じた時、そのまま彼女の胴体に掴み直そうと手を動かした。
この動きに合わせて、伸びた陽炎の両腕が彼女を包んでいく。
ビクターは感じるままシェナを引き寄せると、自身の胸の中に彼女が瞬く間に収まった。
「あんた何したの!? 何なの、その身体!?」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非