(7)
コアは腹の棘を抜き、力を蓄えようと、辺りに湧き立つ苦痛を集めていく。
そこに隙を見たシャンが、コアの仮面を打ち砕こうと槍を投擲した矢先――コアの灼熱の眼光が彼に向けて放たれた。
それが迫るにつれて皮膚が焼かれるのを感じたシャンは、大きく身を翻す。
周囲が赤く染まった次の瞬間、風を切る音と共に、彼は高々と宙に浮かんだ。
使者の竜の1頭が、彼の鏡のマントを掴んで乱暴に飛翔していた。
激しく高低差をつけられ、シャンは今にも振り落とされそうな状況に焦る。
それを直ちに補助をしに現れたのは、鱗の兜を着けた精霊と、オーロラの様な衣を揺らす精霊だ。
シャンは戦士達に睨みを利かせる。
「其方等の竜はどうなってる! 随分な作法だな!」
駆けつけた精霊達は顔を見合わせ、ただ首を傾げるだけだった。
シャンはそのまま、2人に脇を抱えられて海に戻されていく。
この時、コアを囲む様に波が騒ぎ立てていた。
その現象に見覚えがある4人や漁師達は、はっとする。
今にもコアを海底に導こうとするのは、あの合わせ鏡の路が生まれる直前に現れた鏡の波だ。
力を振り絞ったシャンディアが、シャンの鎖に代わって波による引張力を働かせ、コアを沈めにかかる。
コアは反撃に間に合わず、胸部まで大きく沈んだ。
顔の高さが不運にも、漁船の位置まで下がってしまう。
コアは血で汚れた口元を吊り上げ、人差し指でジェドを誘き寄せた。
その動きはまるで糸を引く様で、ジェドは船縁を越えて真っ逆さまに転落してしまう。
掴むのに間に合わなかったマージェスとグリフィンは声を上げた。
彼等の横に追いついた3人や、後の皆も助けようとロープを取ろうとするが、追いつく筈もない。
コアは大口を開き、鏡の波を吸い込み始めた。
まるで鯨が餌を求める様に、海面に顔を突き出したジェドを瞬く間に吸い込んでいく。
ジェドがコアの体内に取り込まれる危機に、シャンディアは術を止め、彼を喰い止めようと鰭を切った。
ジェドは激流に攫われ、海水を飲まされ浮力を保てていない。
またしても死が過るところ、流れに身を任せてコアに向き、槍を最長に延ばして構えた。
どうせ腹の中で薄気味悪い光と混ぜこぜにされるならば、ついでにそこら中を切りつけて死んでやる。
例え自分が破滅の動力になってしまおうとも、1秒でも時間を稼いでやると歯を食いしばった。
位置はいよいよ、コアの仮面の嘴の根元にきた。
口内から喉の奥へ繋がる闇の通路からは、夥しい数の悲鳴や騒音が鳴り響いている。
ジェドはこれに気を失いかけた次の瞬間、白銀の光が颯爽と横切ると、その場から瞬く間に遠ざかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
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