(5)
コアが両手に球体を浮かべる姿が迫る。
精霊達は、コアを止めようと刃と炎を放ち続けるが、コアの全身から漲る影によって弾かれていく。
弱っていた筈のコアは身体を伸ばすと、更に大きさを増した。
現れる球体に黒い稲妻が巡ると、重力が働き始め、地響きが起こる。
その影響で再び、ガラクタが回転をつけながら宙に打ち上げられた。
回避するべく、シェナがもう一度風を起こして船を遠ざけようと床を蹴ったのが先か――フィオが彼女の腕を掴んで待ったをかける。
「ここに居て支えて! 早くっ!」
フィオは後の2人や、手が空いた大人達に叫ぶと自身に集まるよう呼びかけた。
ジェドは事態に少々困惑しながらも、フィオに引き寄せられる。
この時、彼女が平然と飾りに触れて船縁に押し当てていながら、その身体に変化が起きていない事に疑問を抱いた。
だがフィオは、ジェドの不思議がる視線も余所にコアを見据えている。
グリフィンはフィオの背後に駆け付けると、言われるがまま、彼女の肩を掴んで支えた。
辺りには、白銀の微光が柔らかく漂っている。
その出所を探ると、フィオの髪の先端が、淡い光の線を走らせながら輝きを放っていた。
肌を見れば鱗を思わせる光の筋が見え、忽ち胸を不安の針で突かれる。
彼女はやはり、この先の生き方を海に預けてしまうのだろうかと。
ただ、そこに浮かぶ鏡の瞳からは、彼女自身の真っ直ぐさを感じた。
何かに自信を滾らせていると分かると、未来の無事を切に願いながら、細いながらも逞しい肩を強く掴んだ。
「フィオ何する気だ!
このままじゃ、ぶつかっちまう!」
痺れを切らしたジェドが、コアが生成する球体を見たまま戸惑う。
頭上からの低い哂い声は、重い泥を浴びせる様に降りかかった。
シャンは突撃してくる4人に焦り、2本の槍に鎖を絡め、コアに受け身の姿勢を取る。
漁船の真下に回った他のミラー族達は、鏡の結界を引き上げ始めた。
これと同時に、共に被害を受けかける東の島でも銀の膜が揺れ動く。
しかし力が激減した彼等の術は緩やかで、コアが攻撃を宙に掲げる速さの方が何倍も上手だった。
フィオの中に無音が生まれる。
コアが明け方の空に高々と掲げる、過去から未来の変化を描く地球を模した砲弾。
そこに緩やかな波紋が広がると、頬に銀色の涙が伝った。
その黒い地球は、コア自身が愛してやまなかった生命の星だ。
そこから幾重にも嵩張る苦痛の声が、悍ましい影の腕を蔦の様に伝う。
大切に守り抜いてきた大地を、岩を打ち砕く様に扱ってしまうようになった。
地球を崩壊させた後、たった独りでやり直そうとする強引な手段は、痛くてならなかった。
球体と化した痛みを、人々は今でも忘れずにいる。
互いを痛めつけ続ける事に意味などないと、フィオはより一層、拳に力を込めてコアを睨んだ。
この先に必要なのは拘束ではなく解放であり、共に在るために思考力を絶やさない事だ。
そこに命の奪い合いは必要ないと、耳も目も、言葉すらもすっかり失ったコアに、胸で語りかけた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
気が向きましたら是非