(2)
鮮明に鳴り響く音に、神々は身構える。
シャンの眼光の指示を受けた鮫や鯱、海豚は、漁船に向きを変えると高々と跳ねた。
続く、精霊達と竜達の咆哮が、同じ方角に向けて放たれる。
彼等の合図を真っ先に受け取ったジェドは、船縁から飛び下りると周囲に伏せるよう吠え飛ばした。
迫りくるものを察して焦るシェナは、助走をつけると漁船の壁に激しく体当たりし、叫ぶ。
「向こうよっ!」
彼女の喉から金の光の筋が迸ると共に、風が漁船の向きを大きく変えた。
ビクターは、宙に尾を引く様に広がる陽炎がそこまで迫っているのに気付いていた。
陽炎はそのまま、自分や仲間達を狙うだけでなく、見張り台に巻き付いて圧し折ろうとする。
折れてしまえば衝撃と共に沈没するだろうと、咄嗟に例の鏡のピストルを引き抜いた。
しかし弾がない事に冷や汗が吹き出る。
見張り台の軋み音が増し、いよいよ傾き始めた。
「まずい、倒れる! 倒れるぞ!」
仲間の悲鳴が蠢き、ビクターは困惑の渦に引き込まれてしまう。
その時、フィオの真っ直ぐな呼び声に振り向かされた。
彼女の鏡の双眼に映る景色が飛び込んだ時、ビクターはいよいよ手を動かす。
要領が分からないまま、とにかくピストルの至る所に触れた。
動きそうなパーツの音を確認すると、不意に触れた上部の表面を手前に滑らせる。
スライドが叶ったと同時に反動で引き金を引いた次の瞬間――辺りは静寂に陥った。
ビクターは世界に孤立し、息を荒げ、状況に目と耳を疑う。
周囲の誰もが動かなくなってしまった。
皆は声を放たず、身を低くしようとする姿勢や、走りかけるところで完全静止している。
船の揺れも無く、帆もまるで凍った様に波打った形のまま動きを止めていた。
今にも倒れそうな見張り台も、斜めのままびくともしない。
船体が撥ね退ける飛沫すら、宙一帯に滞っていた。
更には、これまで見てきた敵の陽炎が白濁色と化し、明確な容姿を持って浮かんでいるのが分かる。
不意に引き起こされた事態が、敵に何かしらの影響を与えたのかと、ビクターはまじまじとピストルを見回した。
事態に動揺する敵は、背筋を丸めた痩せ細った人間の様な姿をしており、コアと同じ赤い眼光を熱と共に放っている。
まるで自分しかいない様な空間に、ビクターは胴震いが止まらなかった。
しかし身構えると、敵の群を睨みつける。
その時、ピストルが振動すると、あの黒い陽炎が現れた。
人型と化した敵は、這う様に出現したそれに怯み、いよいよ金切り声を上げる。
その威嚇の声は、空島で対立した魔女の下部達と同じものだった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
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