(1)
嵩張る雲が散り散りになり、寒暖が入り混じる明け方の空の下で、神々は崩れかけていた。
守護神の竜は、片翼に負った傷に息を荒げている。
リヴィアは焦り、このままでは海に落ちかねないと合流するや否や、竜の鬣と角を掴んで着水を防いだ。
そこに使者の竜達も加わる最中、翼や傷の回復に努めようと精霊達が近付き、眩い眼光を浴びせていく。
コアの仮面から地肌にまで走る深い傷から、黒い血が流れ落ちた。
自身の再生が間に合わないところまで追い詰められた様は、海面に出たばかりの頃からかけ離れ、苦痛を滲ませている。
その時、コアは間もなくこの場に接近しようとする漁船の気配を察すると、自らが操る重力によって浮上したままの瓦礫や汚泥を投下した。
その際に嗅ぎつけた4人の血の匂いに眼光が尖ると、口角が上がる。
流血は、麓に揺れる波に零れ落ちては蛇の様な煙を上げた。
コアの片腕は、4人の力を求めて漁船に伸びていく。
歪んだ遺伝子を持って生まれた傑作こそ、もう1つの自身の手先であり道具であると、興奮に息を荒げる。
その息遣いを真っ先に聞きつけたジェドは、網を掴んで船縁に立っていた。
巨大な身体をどうにか維持するコアと見つめ合う状態が続く内に、自身の異変を感じ取る。
沸き起こる強い感情にもっていかれてしまう現象は正に、コアと一致していた。
見せつけられた過去や、現在を通じて分かるのは、父も自分も呪いによって作り変えられた生き物だという事だ。
払拭しきれない苦しみが、槍を掴む手を強めていく。
共に世界を守る事や、生きる事ができていた筈のコアに、思い出して欲しかった。
1つの意識に攫われてしまう事で、失うものがある。
それには命も含まれているという事もまた、身をもって知った。
島の皆が自分を取り残さなかった様に、目の前に象られた巨大な狂気から目を離したりはしない。
崩壊した世界でも再び立ち上がれる可能性がある事を、あらゆる手を尽くしてでも大地に気付かせたかった。
帆は吹きつける強風をいっぱいに受け、潔く波を切る。
藍色の海面には白銀の微光が点滅していた。
負傷した海洋生物達が浮上できずに留まっている。
更には、落下した精霊達に息を促すミラー族達が波に揺られていた。
海からの攻撃力が低下し、空中からの反撃に絞られてしまっている。
危険鮫の群を呼び寄せて対抗する光の明滅は、力尽きるまで術を操るシャンによるものだ。
確実に弱っているコアの隙を狙おうと、全身に負った傷も構わず鏡の刃を放ち続けている。
抗い続けるコアはシャンを面白がると、一心不乱な彼の視線を漁船に逸らせようと指を弾いた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非