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※1540字でお送りします。
目前のジェドに青褪め、先がすっかり黒く塗りつぶされている。
一言も発せない。
発せられる訳がなかった。
真実を目の当たりにした上で自分を見据えるジェドに、震えが止まらない。
今ここで死ねばいいのだろうか。
そう過り切る頃には、目と鼻の先にまで来ていたジェドに、思わず悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちた。
顔を突っ伏すや否や、反射的に謝罪で溢れかえる。
許される筈もないと知りながら、他に相応しい言葉が見つからなかった。
殺すつもりはなかったなど、大嘘だ。
獣の様な恐ろしい男に喰われる前にと、咄嗟に行動していた。
紛れもなく、殺すために。
アリーやアイザック、スタンリーまでもが駆け付け、呼吸を荒げるマージェスの身体に触れた。
ジェドはふらふらと首を振ると、冷静さを完全に欠いたマージェスの胸倉を掴み、強引に顔を上げさせた。
「しっかりしろよ!」
だがマージェスは、鋭い声に肩が跳ね上がるも、未だ瞼を失ったまま唇を震わせている。
怒りや憎しみで泣き喚きたいのはジェドだというのに、自分が泣き崩れている。
そんな己など、今すぐにでも消し飛ばしたかった。
「立てよ早くっ……立てって!」
ジェドの真っ直ぐな眼差しが赤らみ、震えていく。
マージェスは彼の様子に困惑しながら、引き上げられるがまま立ち上がった。
その身を支えようとする周囲だが、彼は静かに払い除け、激しく揺らぐ視界の中でジェドを見つめた。
この子が望むどんな事でも受け入れねばならない。
今や大罪人と知られたのだからと、視線が落ちていく。
だが、再び視界が広がった。
「頼むよ……船長がいんだよ……」
何を言うのかと、マージェスは声なく否定する。
それでもジェドは目を尖らせ、怒りを滲ませると更にマージェスを揺さぶった。
「おっちゃんしかいねぇだろっ!」
両拳が今にもマージェスの服を千切りかける。
ジェドは額を彼の胸部に激しく叩きつけると、目の前の大切な家族を奮い立たせようとした。
「言える訳ねぇだろ……誰が……誰が、お前の親父を殺したって言えんだよ……」
父を撃って間もなく、マージェスは気を失った。それを確かに見届けたジェドは、彼が悪人などとは思わなかった。
「苦し過ぎたから、あん時、おっちゃんはぶっ倒れたんじゃねぇか……」
これまで共に過ごしていても、顔色を悪くさせていた時を知っていた。
具合が悪いと誤魔化す裏側に、抱えていたものがあった。
これまで、それが何かを知る事はなく、いつだって隠し、笑顔を作ってきた。
「俺はもう知ってる……でも変わらない……だから安心してくれよ……」
言い終わりには、マージェスの首に腕を回していた。
一切の恨みも湧かなかったとは言えない。
銃声と共に父が消えた瞬間、自身も撃たれた様な感覚に陥った。
発砲音に耳を、硝煙の臭いに鼻を狂わされ、視界に飛び込んだマージェスの姿に目を抉られそうになった。
しかしその様な思いをしたのは自分だけではないと、現実に戻ってから考え直す事ができた。
「俺は生きてる……この先も、育ててもらう……おっちゃんに……」
「……もういい」
やっと絞り出されたマージェスの声を振り払う様に、ジェドは目を拭って気を引き締めた。
「次は俺が守る。おっちゃんが仲間を守ってきたみたいに……俺を守ってくれたみたいにだ……」
小さく萎れた身体は、すっかりジェドに包まれていた。
一体いつから、そんな風に物事を捉え、考えられるようになっていたのかと、呑み切れない涙をこぼしてしまう。
「ほら、急げ! 向こうがマズい」
まるで立場が入れ替わった様で、マージェスは直ぐに顔を上げられなかった。
しかし心はすっかり解放され、あらゆる決心をすると同時にジェドを抱き締め返す。
「ああ……すまんかった……」
ジェドは無言で頷くと、マージェスの広く厚い胸に拳を叩きつけ、勇ましく微笑んだ。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非