(16)
ジェドが、腰を抜かしたビクターを立ち上がらせようとすると、レオが追いついた。
すると陽炎は、彼が現れるなり眼光をそっと弱めた。
そして再びビクターに腕を伸ばすのだが、3人は警戒のあまり身を引く。
この時ふと、ビクターは、コアに見せられた世界で陽炎に遭遇した事を思い出した。
深い悲しみを感じたそれとは少し違って見えるのは、眼光の増減や色の鮮やかさのせいだろうか。
澄んだ水色を灯している陽炎は、ミラー族や竜の精霊がもつそれとは別物だった。
「……俺を知ってるのか?」
ビクターが訊ねても、人ではないそれは、分かりやすい反応を示さない。
だが、ほんの僅かに聞き取れたのは
「今、笑ったか!?」
人で言うならば、鼻で笑う様な音だ。
恐怖心が拭われたビクターが陽炎に近付いた次の瞬間――陽炎は、彼の両肩を掴むと高々と持ち上げてしまった。
喉が破れんばかりに叫ぶビクターに周囲までもが声を上げ、引っ張りにかかる。
しかし、颯爽と飛んでいってしまう彼に追いつく筈もない。
宙で両手足をばたつかせるビクターは、そのまま陽炎に漁船内へ連れられた。
彼は船縁を越えた途端、投げ入れられると、行き交う人々の前に落ちた。
彼が降ってきた拍子に上がった声以上に、陽炎だという悲鳴が犇めく。
中でもグリフィンが青褪め、最も距離を取るのは当然だった。
だが騒ぎも束の間、陽炎は、ビクターの腰に挿さったピストルに吸い込まれる様に消えた。
「あんた何を連れて来たの!?」
ビクターはシェナの素っ頓狂な問いに何も返せず、瞬間的な出来事に放心状態に陥った。
一方レオは、漁船内に消えていった陽炎とビクターに、時が止まった様に立ち尽くしていた。
陽炎の光を眺められていた不思議な感覚や、例えようのない感情に静かに動揺している。
ビクターや陽炎と接触したのは僅かだというのに、何故か、昔に途轍もないほど感じてきた温もりを重ねてしまっていた。
惨事を経て、もう2度と感じられないと知った時に得た、大きな失望感。
心に空いた大き過ぎる穴を、未だに修復しきれていない。
けれども今、表現し難い感覚を齎した陽炎とビクターが、それを埋めてくる様だった。
事態に呆気に取られていたジェドは、皆に合流しようとしたところで立ち止まる。
振り返った先には、これまでとは比にならないマージェスがいた。
彼は共に漁船を押し出したきり、手足を止めてしまっている。
ライリーに揺さぶられて漸く立ち上がれても、身体の芯を抜き取られた様に、どこかふらふらしていた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
気が向きましたら是非