(15)
ビクターがピストルを握ると、光が瞬時に失われる。
思った通り重いそれに触れても、何も起こらない。
暫し眺めていると、沖からの凄まじい反乱の音に皆が振り返る。
浮力や飛翔力が低下した神々を目の当たりにした途端、人々は4人の策に沿って漁船を押し出しにかかった。
シャンディアは海に戻ると姿を変え、びくともしない漁船を引き寄せるべく、仲間の海洋生物達を呼ぼうと眼光を飛ばそうとした。
だが、それをシェナが遮ると、シャンディアに先に行くよう叫んだ。
シャンディアが振り返るなり飛び込んだのは、鋭い金の光だ。
「押してーっ!」
シェナの合図と共に旋風が巻き起こると、人力を遥かに超える力で漁船を動かし、滑らせた。
「もっとよ! 緩めちゃダメ!」
漁船が声の指示を受け、萎びた帆が軋み音を上げながら膨らむ。
船体の傾きが整うと、波打ち際に向かった。
激しい追い風のお陰で、皆の腕が離れそうになるところ、シェナの喉から風に乗って這い伸びる金の光が、其々の腕を支えていく。
風は海を押し退け、シャンディアは波に姿勢を崩される。
厚みを感じる熱風は、高波まで引き起こした。
歯を食いしばりながら目を血走らせるシェナの顔に、またしても根の様な光の筋が迸る。
押し続けろと周囲を叩き上げる彼女の声は、感情をそのまま念に繋げ、風を吹かせ続けた。
シャンディアは激しく靡く髪の隙間から、勇ましい表情で船と仲間を導くシェナに呆気に取られる。
その視線を捉えた時、シェナは流れる汗さえも細かな金の光に変えて舞い散らせながら、笑みを見せた。
着水まであと僅かの時、シェナは漁船の後方へ颯爽と回り込むと、大きく息を吸い込む。
押し続ける3人が、遠ざかるシェナに振り向いた途端、彼女は腹の底から息を吹きかけた。
突風が島を揺るがせながら漁船を一押しした途端、人々の半身が沈み、一気に進水した。
「武器を仕込め! 火も忘れるな!」
漁船を駆使してきた大人達は、カイルを中心に仕込みに入る。
そこにシェナとフィオも漁船に駆け込んだ。
ビクターが足を踏み出した次の瞬間、何かに肩を掴まれ、振り返る。
その時、背後のジェドや、彼と共に状況を捉えた人々が叫び声を上げた。
ビクターは目の前の事態に瞼を失い、立ち尽くす。
そこには、松明の様に浮かぶ黒い陽炎が、目玉と思しき2つの水色の光を灯して現れた。
見ると、細長い腕の形をした陽炎が肩に巻きついている。
「う、うわああっ!
放せっ! 何だこれ!? 助けてくれっ!」
取り乱したビクターにジェドが慌てると、上手く狙いを定められないまま、雑に槍を振って陽炎を切りつけた。
透けているそれは当然、攻撃を擦り抜けてしまう。
妙な事に、その黒い陽炎は、触れているにも関わらず砂になったり、熱で溶ける事は一切なかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
気が向きましたら是非