(9)
仲間を沢山困らせ、危険も多くおかしてきた。
それを続ければ続けるほど、長老からこの機会を奪い続けていたのだろうか。
だとすれば、やはり自分は愚かなままだった。
自分や、自分のものを守ってくれている人に対してしてきた事が、悉く嫌になる。
瓦礫の下で息絶えた母や、姿を知らない父はこれに絶望しているだろうか。
「思い違いをするな、ビクター……」
慰めなど要らないと、ビクターは声よりも先に長老の手を弾いた。
それでも長老は、彼の両肩を掴んで強引に目を合わせる。
「これを預かったのは、お前は必ず、これを意地でも守ろうとするからだ……」
握り締めてくる握力から滲む痛みなど、ビクターには気にする隙もなかった。
「もし失くせば、お前はこれを探しにどこまでも行ってしまうだろう……わしや他の皆は何よりも、お前がこれに囚われずに戻って来てもらいたかった……何故ならわし等は……たかが他人の連中だがな、ビクター……お前を守る責務がある……こいつは、お前の両親との一生の約束だっ……」
長老はビクターが何かを言うよりも先に、大きくなった彼を乱暴に抱き寄せた。
ビクターは、1滴、また1滴と零れてしまう涙を洟と共に拭う。
その視線の先に立つアリーは、涙ぐむ顔に笑顔を浮かべると優しく彼の頭を撫で、額を当てた。
「お前はわしの腕に躓いて落ちたが……何かに押されて倒れた感覚の方が極めて強い……目にした訳ではないが……わしは両親に託されたと捉えておる……なぁビクター」
長老は身を離すと、彼の両肩に力を込めたまま見上げる。
腕に収まっていた子は、大人と並ぶほどに背が伸びた。
そして多くの決断を繰り返し、仲間を導くようになったと改めて感じると、渡したものを相応しい位置に返してやる。
錆びた鎖のフックがビクターの首の後ろに回された時、彼は再び目を震わせた。
違和感があった首周りから、夢で聞いた鈴の音が聞こえる。
吊り下げられた小さなそれは重く、それが地球である事の意味を突き止めたくなった。
「お前は守られ、その名の通り、未来は決まっておるのかもしれん……」
「決まってる……?」
フィオの口癖ほどではなくとも、自分はよくその言葉を口にしてきた。
願いを叶えたい、目標に到達したいという希望から、それが自然と出る。
そうする事で、再び思い切る事ができる。
顔色を変えていくビクターを見て、長老は頷いた。
「今のお前はもう、何も失くしやせん……」
ビクターはようやく口元が綻ぶと、ペンダントをシャツの下に仕舞い、海を振り返った。
その先に、シャンディアの眼光が飛び込む。
シャンとリヴィアに駆けつけていた彼女は、端にいるグリフィンと3人と、意識を取り戻した2人と共にビクターを見つめていた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非




