(8)
フィオの両手に灯る光は、シャンディアと同じものだった。
シャンが身を起こし、フィオと向き合っている。
その光景は、明らかにミラー族としてのやり取りだった。
片や、折れた斧に再生の炎を受けながら身を起こすリヴィアが、痛みに顔を引き攣らせながらこちらを振り向く。
立ち上がろうとするところ、ジェドとシェナが懸命に支えた。
ビクターの胸では、もう引っ張る必要などないと、何かが岩の欠片の様に崩れ落ちる。
否、端からそんな必要など無かったのだろう。
勝手に、そんな気になっていただけなのだ。
全て偶々、そんな立場に立つ条件が揃っただけだった。
「ビクター聞けっ……」
「もう説教は飽きたんだよっ……こんな時にやめろっ!」
「こっちを向けっ……お前に返すもんがあるっ……」
何を言い出すのかと、ビクターは長老に耳を疑いながら赤くなる目を向ける。
情けない顔だというのに。
涙をこらえる目は震えて視界を曇らせていた。
長老はそれに触れる事なく、酷く弱った身体をどうにか自力で支えながら目を光らせている。
状況に気付いたアリーが駆け寄り、腕を支えるのだが、彼はそれを静かに断るとビクターに歩み寄った。
そして、やり場のない憤りや悔いに震える若い手を掴み上げると、掌に何かを握らせた。
その拍子に耳に飛び込んだ微かな美しい音に、ビクターは大きく揺さぶられる。
重なる掌の間で押しつけられるそれは、互いの温度を受けて温かくなっていく。
感触から、それは丸みを帯びており、とても小さなものだった。
「……何だよっ……何だよこれっ!?」
反動で手が揺れた途端、夢でも聞き、コアに見せつけられた世界でも散々聞いた鈴の音が。
優しく耳の奥まで傾れ込んだ。
長老の手がそっと離れた時、掌で角度を変えたのは小さな地球だった。
薄汚れていながらも真っ青な表面をしており、そこに浮かぶ大陸は金色で作られている。
所々が錆びた細い鎖に繋がれたそれを転がせば、その度にリーンと弱々しい音を奏でた。
ビクターは動揺し、視界が一層ぼやけていく。
小さな地球は、辺りで明滅する神々の光を受けながら、艶を放つ部分に自身の顔を映す。
長老が激しく咳き込むと、ビクターは彼を支えて耳を澄ませた。
「お前が瓦礫を踏みながらわしの元へ来た時……それを首にさげておった……きっと、いや確かに……両親が贈ったものだろう……」
ビクターは、飛び込むあらゆる情報の波に揺らいだ。
大事な物であるこの存在を知る事が何故、今になってしまったのか。
口に出すよりも先に表情がそう訊ねていた。
長老は何も言わず項垂れる。
「俺がこんなだから……失くしちまうからだろ……」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
気が向きましたら是非