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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
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(19)




 ビクターは声に肩を弾ませると、反射的に胸を押さえる。

視界の先に現れた細長い大きな影に、鼓動が速まった。

射し込む光を背に受ける誰かは、真っ黒な影の柱になって分からない。

不思議な事に、それから逃げたいなどとは一切思わなかった。

ずっと待ち続けていた誰かの様な気がして、見えない壁に両手を貼り付けてでも見入ってしまう。




 幼児はその影に夢中で両手を伸ばし、足元を全く気にしなくなった。

影が近付いてくるにつれ、幼児の視線は上がっていく。




 ビクターは自然と見上げる状態になると、喉を詰まらせる。

向かいくるのは影ではない。

その、透き通って揺らめく大きな姿は、ここに転落する前にキューブ内で見たものと同じ、黒い陽炎だ。

淡い水色の光を2つ灯しており、時に、灰色や黄金色が混ざる青色に変わったりと、水色を基調に変化を見せた。

まるで目玉の様なそれに、吸い込まれそうになる。

だが何をするか知れないと、それから幼児を遠ざけたくなり、その場を叩きつけて気付かせようとした。

それでも、こちらの合図に幼児や陽炎が反応する事はなかった。




 陽炎は声を上げる幼児を横に、ふわりと小さくなる。

透けた物体を通して瓦礫の地面が見えた。

背が高くて細い形から、今は丸い岩の様になっている。

そこから、細長い陽炎が地面に伸び始めた。

よく見ると手の形をしており、撫でる様な動きをする。

手は、1つ、また1つと瓦礫を力無く退け始めた。

幼児は自らの両手を弄りながら、その様子をじっと見守っている。




 ビクターもまた同じ様に見つめていると、その下に何かがあると察した。

胸が徐々に熱くなり、動悸が激しくなる。

そこは、先ほど自分が這い出た場所だ。

何かがまだ埋まっているのだろうか。

だとすれば何があるのかと、思考が勝手に速まり、焦ってしまう。

共に瓦礫を退かしたくてならず、幼児を動かそうと辺りを叩いた。




 尖った瓦礫はコンクリートの破片だろうか。

血痕が付着するそれを、陽炎が力無く落としたのが最後だった。

露わになったのは、半眼を開いて俯せになった女性だった。




 陽炎は優しく彼女の背中に触れると、撫でる手を止めないまま、頭と思しき部分を垂れる。

折れた様な姿は、なかなか元の姿勢に戻らなかった。




 ビクターの頬にふと、涙が伝う。

そこから這い出ようと踏ん張った際に、柔らかいものに触れた事を思い出した。

その感触が、拭っても拭いきれないほどに両手に残っていた。

微かに温かかったのは、彼女の体温だったのだろうか。

今は、この場に積まれている瓦礫と同じ様に固く、冷たくなっているに違いない。

自分はその人に包まれていたのだろう。

ならば今すぐにでも、この腕で包み返したかった。

早くそこへ行けと、ビクターは幼児を内側から暴れる様に叩き上げた。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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