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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
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(18)




 どうにか這い進むと、顔が外に突き出た様だった。

誰の声も聞こえず、砂煙ですっかり辺りが雲り、何処なのかが分からない。

遠くで炎が揺らめく様なオレンジの光が見えるが、ここへ転落するまでに見た火だろうか。




 再び視界が揺れると、尻に軽い衝撃が走る。

景色が前方から後方に変わると、目に飛び込んだものに声が漏れた。

小さな両足と、丸っこい両手がある。

見るからに幼児の身体をしており、主は、大量の石の上に腰掛けていた。




 また、くしゃみが数回聞こえた。

先ほどよりも頭が揺れ、その反動が伝わってくる。

外の空気の悪さに億劫になっているのか。

暗闇にいる自分も臭いを嗅ぎつけており、手の甲で鼻を擦る。




 すると今度は、甲高い幼児の声が2回響き渡った。

砂煙の中で捉えたのは、瓦礫で占められた世界だった。

所々から、ひん曲がった鉄の棒が伸びている。

南の島で見かけたものとよく似たそれらが大量に突き立っていたり、転がっていたりと、見ていて呆気に取られる光景だ。




 また幼児の声がする。

その度に胸が大きく震えた。

だとすると、幼児と感覚が繋がっているという事だろうか。

何故その様な事態が起きているのかと、景色に更に前のめりになる。

直接外に出て確かめたいところだが、この闇の空間を刺激しても道は開かなかった。






 幼児は、靄の向こうが明るくなり始める光景を見ていた。

それに少し希望を持つ様に、不安定な手足を凹凸の地面に踏ん張ると、尻から身体を持ち上げる。

不器用な動きは、その身を左右に大きく揺らした。




 ビクターは目を見開く。

幼児の動きに合わせて、あの美しい音が聞こえた。

連続的に耳に飛び込むそれは、時に大きく、時に小さく鳴り響く。

どれも柔らかい、耳を撫でる様な微かなものだ。

出所が分からないが、近くである事は分かる。

もしやと身体に触れ、叩いたり飛び跳ねたりしてみた。

だが、そこからは何の音もしなかった。




 幼児が纏うサロペットは泥だらけで、穴も開き、所々に黒い染みが付着していた。

顔も砂や灰に塗れ、小傷も負っている。

なのに痛みも余所に、徐々に広がりながら射し込む光に夢中になっていた。

不安定な足取りで向きを変えると滑り、その場に呆気なく転がってしまう。




 ビクターはその反動を受け、暗闇で左半身から痛みが走った。

幼児は上手く立てない様で、尚の事、自分が外に出て支えてやりたかった。

そして相変わらず聞こえてくる、リーンという音に、意識が持っていかれる。




 幼児は微かに泣き声を上げたが、すぐに引っ込めた。

まさかとは思うが、この状況から、泣いても仕方がないと悟ったかの様に。

再び四つん這いになり、踏ん張ると、次は速やかに立ち上がって見せる。

背筋を伸ばし、小さな両手でバランスを取りながら方向転換を成功させた。

先が気になる様で、拙い歩行をどうにか2度、繰り返す。

瓦礫の上ではなく、その隙間に上手く足を嵌め込んで進んだ。

そしてまた、誰かを呼ぶ様に甲高い声を2回上げた。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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