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※大海の冒険者~人魚の伝説~ 第十二話 断(21)
ビクターの耳を擽り続けていたのは、あの不思議な音だ。
スタンリーに鈴だろうと言われたそれを、どうして自分は知っているのだろう。
ぼやけて揺れる世界は、あの日に見た夢そのものだ。
視界が左右に大きく揺れ、倒れかかるのを背後から支えられている感覚がする。
それが楽しくて自然と浮かぶ笑みを、襲い掛かる胸痛が払拭していく。
つい顔を背けてしまったが、もう一度見たいと頭を上げた時にはもう、鏡の壁でしかなかった。
その途端、“行け”という一言が飛び込んできた。
温かい声は、グリフィンやレオでもない、別の誰かの声だ。
存在感あるそれに、ビクターは背後を僅かに振り返る。
※ビクターの回想を4話でお送りします。
ビクターの耳を擽り続けていたのは、あの不思議な音だ。
スタンリーに鈴だろうと言われたそれを、どうして知っているのだろう。
伸縮する合わせ鏡の景色に浮かんでいると、黒い靄が見え、その向こうに別の世界が現れた。
それ見たさに、何度も靄を掻き分けていく。
触れると温かく、簡単に擦り抜けてしまうそれは、小刻みに振動していた。
陽炎だろうか。
しかし、どうして黒いのだろう。
黒煙の様だが臭いはなく、影にしては透けていた。
その答えを求めて我武者羅に腕を振っていると、急に浮力が断たれた。
突如その場が弾け、背中から真っ逆さまになると絶叫の尾が伸びていく。
素早い景色の流れが、徐々に情報を寄せつけた。
砂煙が立ち込める薄暗いそこは、果てしなく広がる瓦礫の山だ。
ところどころに火が揺れる光景も見え、焦げ臭さが充満している。
光も知らなければ風も知らない、まるで完全に生気を閉ざしてしまった様なそこに、真っ逆さまに落ちていく。
頭から砕けるに違いない恐怖に、悲鳴は高まる。
尖った瓦礫や岩の塊がそこまで来た時、顔を覆うと身を縮める。
そのまま、身体は衝撃を受ける事なくどこかへ吸い込まれ、音もなく消えた。
徐に顔を上げ、立ち上がる。
辺りを見回しても、閉鎖的である以外に何の手掛かりもない。
真っ暗な空間は、震える息を微かにこだまさせている。
仕切りなども一切捉えられないその場に両手を泳がせ、足を進めた。
すると目の前に、点々と白い光が見えた。
射し込んでいる様子から隙間灯だろうかと、求める様に駆けた。
そう明るくはないにせよ、自分を捉えるには十分だった。
身体に異常はなく、姿も一切変わっていない。
コアは一体、自分を何処へ閉じ込めたのだろう。
隙間灯があるならば、この壁は薄いのか。
暫し考えた後、そこを蹴ったり叩いたりしてみる。
案の定、細かい石が崩れる音がした。
ある程度の隙間が開き、外を覗くと、誰かが2度くしゃみをした。
小さいそれは、島のチビ達と同じ可愛らしいものだった。
そして景色が大きく緩やかに左右する。
自分が首を動かした訳でもないのに、まるで誰かが代わりに辺りを見回している様だ。
先に広がる光を目指そうと、前傾になる。
何故か窮屈に感じ、身体が思う様に進まない。
繰り返し全身を前後させると、肌に固い何かが擦れる感触がした。
姿勢が腹這いになっているのかと気付く中、力を加える手元が柔らかいものに触れた。
その温度は次第に冷たくなっている。
ここから抜け出そうと、前方に積み重なる掌よりも大きな石を掴んだ。
この時、視界や全身の摩擦から、自分が石の下にいると分かった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
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