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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
54/154

(16)




「無理だ、突き落せ! こっちが死んじまう!」




オールが飛んだ矢先、横から割り込んだ別の同乗者は、狂暴化した男性の頬を1発殴った。




 男性はバランスを崩し、半身を海に沈めたものの、(いかだ)についた片手で再び身を持ち上げる。

そして片足を乗り上げた時、腰を抜かしていたエドと、オールを振ったカイルを掴みにかかろうとした。

その爪から滴る銀の液に、人々は悲鳴を上げる。

男性の耳には、それらが緩やかに脳内に響き渡っていた。

抗う人々の腕など容易く躱せてしまう。

どの動きも極めてスローに見える灰色の視界を、豹変した獣の瞳を通して見ていた。




 そこへ、真横から力強い攻撃を喰らった。

太い両腕が男性に絡みついたかと思うと、そのままボートに弾き返されてしまう。




 ジェドはその衝撃を受けて跳ね上がった。

全身の痛みと振動の恐怖に身を縮める。

外では赤ん坊の自分の激しい泣き声が響き渡った。

それに焦り、痛みを堪えて外の様子を見ようと飛び付く。

父がボートに戻ったが、またしても人々に襲いかかろうと中腰になり、威嚇の声を放った。

ジェドはその光景に声を失う。

人間からかけ離れている父の姿が、自分自身と重なった。

止めろと何度も声を枯らして叫ぶのだが、更なる揺れが伴うと、涙で霞む視界に別の誰かが割り込んだ。




 男性は懲りずに筏に飛び移ろうとする。

それを見兼ねて止めようとするのは、先ほど男性をボートに突き返した恰幅のいい者だ。

相手の両肩を掴み、ボートで押し合いになっている。




「離れろマージェス! その液体に触れん方がいい!」




エドの叫びを横に、加勢しようとボートに足を掛けたのは、カイルとレックス、そして相手を殴ったグレンだ。

4人がかりで、(たけ)り狂う男性を落ち着かせようと掴み合いになる。

だが男性は牙を剥くと、カイルの首筋を狙った。




 ジェドは激しくその場の壁を蹴っては、涙声で吠え飛ばした。




(止めろーっ!)




 懇願に被さる様に、1発の乾いた破裂音がした途端――大きな何かが海に落下する音が通過する。




 耳を塞いで眩んだジェドは転倒した。

爆音は聴覚を狂わせるほどだった。

そしてこの音の事を、今聞くまですっかり忘れていた。

幼少期に見た夢でよく聞いていた、当時は例えようのなかった音だ。

そして焦げ臭さが鼻の奥に流れ込んでくるのも、全く同じだ。




 ジェドは恐る恐る顔を上げると、震える手を闇の壁に当てて外を覗う。

横揺れするボートの中で、赤ん坊の自分の泣き声が響き渡っていた。

そこにはもう、島の人々を襲撃する父はどこにもいない。

ただ、代わりに目に飛び込んだものに青褪めた。

全身から血が抜き取られた様な感覚がする中、海面に銃口を向けたマージェスが鮮明に浮き上がる。

脳が状況を整理した瞬間、身体が崩れ落ちた。




(おっちゃん……父さんは……?)




闇に閉ざされかける手前、マージェスもまたその場に崩れ落ちた。




挿絵(By みてみん)









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
とうもです! 赤ん坊のジェノちゃんはただ光景を見て泣き叫ぶことしか出来ないなんて( ;∀;) かわいそうです( ω-、) どうにかして、ジェノちゃんが父親と幸せに暮らせる絵が見たいです( 。゜Д゜。)…
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