(13)
ジェドはそれを近くで見ようと前のめりになるが、外の景色はびくともしない。
そんな中、匂いを感じていた。
紙に染みつく生臭さと、密着している男性の服の臭いが同じだと気付く。
またそれらとは別に、男性自身の匂いも嗅ぎつけた。
男性は紙を眺めている内に、困惑の表情を浮かべる。
何故、こんなものを持っているのか。
何故、知らない紙をこんなに見入ってしまうのか。
何故、紙の下の余白に付着した滲んだ跡に目が引き寄せられるのか。
まるで、そこに何かが書かれていたという事を身体が知っている様だった。
理由は分からない。
そして、分からないという事に身震いする。
忘れてしまったのだろうか。
以前の自分は、ここに書かれていた内容を知っていたのではないか。
だからこんなに、目だけが反応してしまうのだろうか。
思い出せない恐怖に息を荒げ、腕の子どもに力が入る。
そして更なる疑問が押し寄せる。
この子は一体誰なのだろうか。
何故、子どもを抱いているのだろうか。
ジェドは窮屈感と激しい鼓動の音に包まれ、窒息しかかる。
反射的に狭い空間の壁を叩き、足をバタつかせ、男性に今すぐ解放するよう叫んだ。
男性は、子どもの泣き声と、小さな手が胸を叩きつける振動を受け、流し目を向けた。
子どもは甲高い声を上げながら、唇の開閉を繰り返している。
何か腹に入れてやらねばならないと、海を見回す。
何かを獲ればいいのだろうが、それが叶うとするならばと、汗を滲ませながら空を仰いだ。
真上の海鳥を捉えた途端、それが実に美味そうに見えた。
片足で飛びかかるのには限界がある。
獲物が魚を求めて、ある程度近くまできた時に、捕獲するしかない。
照りつける太陽に体温が上がり、汗は止まらない。
疲労感が増し、足の痛みが全身を巡っていた。
視界も眩み、海鳥を捕獲するにも意識が揺らぐ。
直射日光が辛く、子どもを抱えたままでは暑苦しく、再びボートに寝かせた。
ジェドの視界は、子どもが寝かされた動きで空一色になる。
全身が心音に満ちている中、遠い男性の横顔に目が熱くなった。
苦痛を堪えながら何かに懸命になる姿が、自分を想っての事であると素直に伝わってくる。
どうか一度、じっくりこちらを見てはもらえないだろうか。
顔をもっと知りたい。
自分の身体が変化を起こす理由を、その男性ならきっと知っているだろう。
目を合わせて、話しをしてはもらえないだろうか。
湧き上がるあらゆる願いや疑問が、視界を一層熱して潤わせる。
そして何度も男性を、きっと父を、振り向かせようと引っ切り無しに叫んだ。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非