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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
43/154

(5)




※「大海の冒険者~人魚の伝説~」

第十二話 断(21)より抜粋


 シェナは声を失い、目前の世界にみるみる青褪めていく。

砂嵐の如く乱れる映像は酷く暗い。

薄汚れた夜の世界を思わせるそこに垣間見えるのは、数々の子どもだ。

中には大人もいるが、圧倒的に子どもで占めている。

崩れかかる建屋に消える者や、滑車が付いた箱の中へ消えていく者もいた。

その最中、重たい金属の音がした。

引き摺られている様なそれは、徐々に自分の手足、首にのしかかってくる感覚に陥った。


※シェナの回想を6話でお送りします。







 シェナは放心状態に陥っていた。

これまでならば涙で声を枯らしている筈が、そんなものは通り越していた。

宙でどうにかバランスを取りながら、立位を保っている。

四方八方に流れて見えるのは、砂嵐の如く乱れる景色だ。

暗く、薄汚れた夜の世界を思わせるそこに、自分よりも小さな子ども達が見える。

中には大人もいるが、圧倒的に子どもで占めている。

その光景を眺めている内に、首と両手足首に違和感を覚えた。

触れても何もないのだが、冷たく、肩にのしかかる様な重みを感じ、凝りまで催した。






 辺りが靄に包まれると、鼻を突く臭いに(むせ)る。

腐敗臭だと分かると肌が粟立ち、身を窄めた。

その時、足元がザラつきに気付き、下を見た。




 そこには真っ黒に汚れた素足があった。

点々と負った小傷からの流血が鮮やか過ぎる様子から、汚れがいかに酷いかが分かる。

身体は、適当な端切れでできた服を纏っていた。

汗を含む様々な汚れが付着したそこから立つ臭いが、余計に鼻を突く。

痒く、視界に揺れる髪は部分的に固まり、指が通らない。

この時、髪が鎖骨まである事に気付いた。

金色の筈だというのに随分と(くす)んでいる。

両手を見ると骨張っており、とにかく細かった。

これが自分の姿なのかと疑ってしまうが、どうもそうらしい。

変わり果てた体の中に閉じ込められた様な感覚だ。




 煙たい空気に紛れる異臭の中、箒で地面を掃く音がする。

目を凝らすと、似た格好をした人々が働いていた。

何故か、その様子を冷静に眺めていられる。

そしてふと、目が勝手に粗い砂地に横たわる箒に留まった。

手が徐にそれを拾い上げると、両手で掴み直し、気怠そうに掃き仕事を始める。




 シェナはこれに動揺し、手を止めて辺りを隈なく見ろと、外の自分に訴える。

だが声は届かず、掃く手は動き続けた。

その時――急に襟首から高々と引き上げられた感覚に襲われ、手足をバタつかせた。




「おい餓鬼! まじめにしろ! 殺されたいのか!?」




太い怒声はマージェスを上回るほどだ。

シェナは声の主を見る間もなく手放され、地面を転げては塀にぶつかる。




「やめて下さい!」




どこからともなく割り込んだのは、両手に布を何重にも巻いた女性だ。

シェナと同じ髪色で、同じく見た目は綺麗とはいえない。

だが身体を張る様子は潔く、周囲の驚きようを見れば、その人柄に察しがつく。




「ンだ、女ァ。その餓鬼の親なら躾しろや!」



「この子は小さいのよ! 乱暴すればどうなるか!

大体、働き手が欲しいなら、動けなくするのは違うでしょ!」




言い終えて直ぐ、仕切り屋が彼女に唾を吐き捨てた。

これに何も言わない周囲は、俯いたまま掃き掃除をする手を止めない。




「未来の元首に楯突くとは……おっかねェ震災から生き永らえたからって、俺とお前らが同等と思うな」




女性を大層面白がる男は、汚らわしい舌を彼女の首筋にべっとりと這わせる。

しかし彼女は、それに声を上げる事もなく忍耐強く立っていた。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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