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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
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(3)




「でも、友達がいるから……守ってくれる強い仲間が、フィオにはちゃんといるから……だから、大丈夫なんだよオルガ……この瞬間が残酷でも、未来はそうじゃない……今度こそ、愛がある世界になるように願う君の選択は、間違っちゃいない……君の仲間が今の僕等を受け入れたのだって、そう信じてるからなんだ……」




オルガは小さく頷くと、フィオを見下ろした。

小さな唇を時折動かしながら真っ直ぐ見つめてくる顔に、胸を締めつけられる。

赤らめた頬は、手にしている花と同じくらい柔らかい。

薄桃色に縁取られた優しい白色が、娘に重なってならず、離れたくない気持ちが押し寄せる。




 やがて、透けたオルガに水面の光が揺れ、2人の身体に反射するまでになった時、彼女は忙しなく男性に口づけをした。




「さようなら……」



「……違うだろ。また後で、だ……

また……すぐ会えるよ……」




オルガは間を置くと、震えが止まらない眼に涙を溜めたまま微笑んだ。




 フィオは、2人の表情の意味を会話から悟る。

病気を患う父も長くはない事を、母は分かっている。

今の大きくなった自分を見られないと諦めている2人に、何としてでもこの状況に気付いてほしかった。

赤ん坊の中に今の自分がいるのだと、拳が砕けそうになるまで叩きつける。

固くてならない空間は狭く、泣き叫ぶ声が籠る。

不気味な厚い壁が、一言たりとも届かせんとばかりに両親を遠ざけていた。




「大丈夫、フィオ……」




 フィオは声を失い、暴れていた身体が不意に止まる。




「大丈夫だから……」




 頬には確かに、母の冷たい唇が触れるのを感じた。

フィオはそこに触れながら、赤ん坊の目を介して母を見つめる。

目は燃える様に熱く、鼓動が全身を揺らしてくる。

こんなにも悲しく、腹を立てているのに、赤ん坊の自分はただ母を見つめる事しかせず、表情を変えようともしない。




「ありがとうアラン……愛してる……」




オルガの声が水に沈む音に変わった途端、アランと呼ばれた男性は咄嗟に彼女を抱き寄せ、唇に触れるのだが――水が、岩を打つ様に弾けた。




 アランはフィオと共にすっかりずぶ濡れになり、フィオの手元に落ちた花を見下ろすと、再び視線を戻す。

オルガはもう、いなかった。

たった1つ、鋭利な反射光を放つ重い髪飾りだけを浜に残して。




 フィオは幾度となく母を求めて叫び続けると、父の激しい動悸が空間を揺らした。

どうにか冷静さを保とうとしていたのだろうが、今になって、大きな衝撃が彼を襲った。

急に視界を閉ざされたフィオは困惑する。

身体が大きく傾き、顔と胴体が熱される様な感覚に陥る。




 アランは、激しい動悸と胸痛に押し潰されかけると、フィオを胸に押し付けたまま浜に腕をつき、咳き込んだ。

なかなか治まらない発作は吐血に変わる。

酷い眩暈を抑えようと意識する中、ある事を思い出し、口を拭った。

そして、オルガが落とした髪飾りを拾った。




 病的な痛みと、愛する者を失った例えようのない痛みを堪えながら、やっとフィオに向き直る。

母の水でずぶ濡れになったフィオは、こちらを真っ直ぐ見つめていた。

瞬き1つせず、複雑な気持ちを何もかも抑えて必死に笑いかける自分を、じっと。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
どうもです\(^o^)/ まさかの展開! フィオちゃんが喋りたくても喋れず、赤ん坊のまま、母親と父親に愛されてたシーンは泣きそうな程、切なく、それ以上に温かいものを感じました( ;∀;) 父親であるア…
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