(2)
どこに身を置いているのか定かでないまま、フィオは、その温度や感触だけを乾いた肌に感じながら目を見張る。
女性が泣き崩れ、首を動かした拍子に、見覚えのある巨大な髪飾りが輝いた。
シャンが踏んでいたあの飾りではないかと、つい、声に出かかる。
しかし、どうしても赤ん坊の声しか出なかった。
その飾りが映し出す変わり果てた自分の顔から、多くのミラー族の存在が流れる様に浮かぶ。
勇ましい顔を浮かべる彼等が目指す先には、黒く淀む空間が広がっていた。
その景色が激しく揺れ、崩れ落ちると、津波が火の大陸を呑もうと押し寄せる。
そこに現れた陽炎と黒煙から、コアの姿が垣間見えた。
その恐怖に、フィオは再び声を上げ、顔を背ける。
不意に閉じてしまった目の奥で、震えが起きた。
まるで先程の映像の続きを浮かび上がらせる様に、波紋が広がっていく。
映像は不思議なものだった。
コアが立つ大海原から、蛸の足の様なものが4本伸び、宙を躍る様に舞っている。
それらの表面からは鋭い光が幾多も放たれ、コアは随分とそれを嫌っている様だった。
だがその景色は一瞬にして流れ去ると、今この場で見ている美しい世界に変わった。
フィオはその光景を見た途端、心が急に穏やかになった。
「オルガ、見てごらん。
この子は真っ直ぐ君を見てる。
何も怖がっちゃいない。大丈夫だよ」
男性が呼ぶ名前に、フィオはまるでドアに飛び付く様に、空間の壁に縋りつく。
決して開く事のないそこを叩きながら、必死に母を振り向かせようと叫んだ。
これによって男性が誰なのかが明らかになると、金切り声で2人を呼ぶのだが、一向に振り向いてもらえない。
オルガは男性に声もなく頷くと、透ける両手を眺める。
男性はその手を優しく取ると、崩れてしまわないよう慎重に地面に共に腰掛けた。
そして、摘み取っていたプルメリアの花をオルガに渡す。
フィオは、その手が震えているのを見逃さなかった。
直ちに元の姿に戻り、2人を抱き締めたい。
見ていて確かに分かる。
2人は間も無く消えてしまうのだろう。
「この子は……フィオは、君に似て勇敢だよ……災難を乗り越えて咲いたその花と同じ……」
声を出そうとしないオルガの身体は、少しの刺激にも耐えられないところにまできているのだろうか。
彼女はみるみる透き通り、太陽が見通せてしまう。
「君が見る未来をきっと、守ってくれるさ……お互い、それを隣で見られないのが惜しいけどね……」
オルガは男性の言葉を噛み締め、フィオに触れる。
フィオは、その冷たさを赤ん坊の身体から浸透する様に、骨の髄にまで感じ取ると、なりふり構わず空間を蹴破ろうとした。
それでも、果てしなく広がる硬すぎるそこは、びくともしなかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非