(2)
ジェドは、フィオが顔を覗き込んだ拍子に頬に落ちた雫を拭うと、更に目を尖らせる。
「ぬれたじゃねぇか!
およいだんなら、ふいて こい!」
「ふいて こい? また きていいの?」
「そんなわけあるか!」
「こいって いったー!」
フィオはまた彼を笑い飛ばす。
苛立ったジェドは立ち上がると、荒々しく砂を払い除けて林に向かった。
後を追おうとするフィオはふと、置き去りにされていた長い枝を拾うと、そのまま忍び足で彼に近付き、背中を突いてやる。
「やめろよ! ……あ、それ! かえせ!」
いい太さをした丈夫なそれは、持ち帰って武器にしようとしていた貴重なものだ。
大人達が扱う槍の様に、魚を獲って暮らせるようになろうと思っていたというのに。
「やーよ。わたしが、ひろったの。ほしいのー?
ほーら、ほーら!」
フィオは揶揄うと枝を両手で握り締め、一目散に走り去ってしまう。
彼女の脚は速いが、走り慣れているのはお互い様だ。
それにジェドは、こんなチビに足の速さで負けたくないと、植物を激しく掻き分けながら追いかける。
2人はまるで獣道を作る様に走り抜けて、障害物など軽々跳び越えてしまう。
しかしフィオは、長過ぎる枝が辺りの木々にぶつかり、進行を妨げられるとそのままジェドに首根っこを掴まれ、共に転倒してしまった。
斜面でバランスを崩した2人は、木から落ちた果実の様に転げていく。
ぴんと生える植物の葉や枝に引っ掛かれ、身体にはまた小傷が増えた。
漸く止まると、真っ先に上体を起こしたジェドは、透かさずフィオの手から枝を奪って立ち上がる。
その時、足首を取られてまた転んだ。
「いってぇな!」
「しーっ!」
ジェドは目を瞬く。
フィオに静かにと指を突き立てられると、そそくさと茂みに身を潜めた。
草の隙間から見えるのは、誰かが肩に縄を掛け、1本の丸太を懸命に引いて歩く姿だ。
「ビクター、また はこんでる」
またとはどういう事だとジェドは首を傾げるが、フィオは眉を寄せ、まるでこの事を知らないのかと言いた気だ。
ジェドは知る由もなかった。
食事の時と寝る時にしか顔を合わせず、ゆっくり話した事もないのだから。
事情を聞いたフィオは大きな目を瞬き、肩を竦める。
一緒に住んでいる友達がいない彼女からすれば、彼等が羨ましかった。
しかし本人達の様子を聞くと、あまり楽しくなさそうだ。
「いつも ああして、き を はこんでるの」
「なんか つくんのか?」
「しらなーい。きいてみたら?」
そうこう話している内にビクターを見失ってしまう。
2人は茂みから顔を出すと、彼が置き去りにした丸太まで近付いてみた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非