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※1590字でお送りします。
街を彩るネオンがまるで、夜はこれからだと主張している。
そこに混ざるのは、企業や商品のコマーシャルに音楽。
そして負けじと飛び込む数々のニュースだ。
それらは深夜でも街を賑わせていた。
ガソリンの給油をしながら片手間に記事を読む客は、ビーガンフードが中心の食品提供が増えたという話題に目を通していた。
環境にも身体にも優しく、目先のコンビニで入手したホットドッグも、代替肉が使われる事が増えている。
大豆製品とは思えないその味を、何度も頬張ってしまう。
家庭の食後の片付けでは、庭に設置したコンポストに食べ残しや生ごみを投入する。
食品廃棄物をなくすために、家庭で取り組むようになった。
堆肥化可能な紙袋に纏めて回収してもらう事もしばしばだ。
ウェブ上の記事や新聞でも目につくようになった、“全ての、あらゆる”というワードを含んだ、“終わらせる”という幾つものゴール。
それらが広まる事で生活を見直した人々や企業がある一方で、首を傾げてしまう考えもまた浮上する。
あるレストランで2名の客が、ふと耳にしたラジオの話題に肩を竦めた。
「どうも身近に感じにくいわ。軽減や改善とか、あと強化とかそういう言葉を聞くけど、それだと目的の“終わらせる”って事と矛盾してるんじゃないの。結局、世界をどうしたいんだか」
「綺麗事だと思うわね。ただの大規模なビジネスに過ぎないわ」
とあるバーでは、ほど良く顔を赤く染めた1人の常連客が、カウンターにグラスを強く叩きつける。
大きく揺れるウィスキーが、仄暗いスポットライトを受けて光の波を立てた。
マスターに耳障りなニュースを変えさせると、その客は鼻を鳴らす。
「新興国の経済成長の抑制だ! 隠れた狙いがある。
先進国がこれまでしてきた環境犠牲を、新興国も一緒になてやりゃあ、世界のパワーバランスが変わっちまう。それをさせんとしてるんだろうよ。俺達はただ、踊らされてんだ!」
1人の大学生が提示するレポートには、“健康と福祉を全ての人に”というテーマがあった。
それに挙手したクラスメートは、つまりは人間が中心の世界になっていくという事なのだろうと切り出す。
「例えば健康を保つために必要なのは薬の開発だ。それには、君が大好きな動物を実験に使う事になるだろう? 生物を守ろうって割にはその点は責められないなんて、都合が良すぎるぜ」
世の中の流れにのって生活を変える姿もあれば、理想論だと意見し、動きが変わらない姿もあった。
やがて面倒だという言葉が飛び交うと、そこで明らかになったのは見せかけのゴミの分別だった。
自社のブランド価値を上げる事を主な目的として行われていたそれは、表面上だけであり、社会貢献をしていると装うものだった。
人々が抱いてしまう不信は、社会全体の不信に変わり始める。
穏やかでない空気が巡れば、そこに乗せられてくる言葉がコアの耳にも流れ着いた。
生物の足場である大地を支え続ける事も含め、多くの務めを果たす内に、自身もまた疲弊していった。
だがそれでも、耳を擽る様に飛び込む笑い声や歌声は癒しをくれた。
遠くであっても聞こえていた愛のある表現の数々は、しかし、長く巡る事はなかった。
「環境問題って言うけど、本当?
今までそれで生活が困った事なんてある?」
欲が欲を呼ぶ事で運ばれてきた言葉に、生き甲斐や務めとは一体何であったのかを見失った。
その日見た朧月夜は、己を映し出した様に見苦しいものだった。
俯いたまま、地中の根や温か過ぎる海中を縫い進んだ。
身体は虚ろになると変形し始め、圧し掛かるものを払い除ける気力すら失くし、頭は鉛になり果てた。
愛おしい声は聞こえなくなり、負の感情ばかりが集まるようになった。
近くで共に在るからこそよく似ていた人の様な肌質や手足は、影を滾らせながら歪な膨張を見せ始める。
そんな身体に哂い、身を粉にしてきた過去を嗤い、終いには自らが招こうとする理想的な未来を呵った。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
気が向きましたら是非