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※1280字でお送りします。
自然科学要素を、海の神の視点で語ります。
海の神は声を失った。
欠片の表面がさらしてくるこれまでの苦難の嵐に、止め処なく流れる異物の波に、眼を震わせた。
海が酸性に近付いた事で、サンゴの骨格や貝類の殻、甲殻類の成長や繁殖を妨げるリスクが上昇した。
ミラー族や仲間の海洋生物達は、鏡の鱗や鰭で太陽光を深海まで行き渡らせ、植物プランクトンの増加を促し、大気中の有害物質を取り込んで光合成をさせた。
糖分、デンプン、酵素、タンパク質といった有機物を生み出し、海や陸の生命の維持に務めた。
海水温の上昇により氷が溶け、海に淡水が流れ込む事で、塩分濃度や温度が変動を繰り返した。
これにより、海洋循環が停止する危機に直面すると、ミラー族は仲間の海洋生物達と共に南北の大海を移動した。
それを繰り返して海洋循環を維持し、異常気象や海面上昇から地球を守ってきた。
また、海中環境の悪化が招く稚魚の成長不良によって、泳力が無いまま命が失われていく状況を回避してきた。
しかし、生物や植物の自然な増加を超えて発生した乱獲は、生物の激減を齎した。
陸の命を繋ぐために、減少する水産資源に幅を利かせる策に出たミラー族は、魚達を一時的に遠洋まで導き、人類の手の届かない場所で増殖を図った。
ある種の生物が減る事で、それを餌にしていた生物の餌が減り、その生物までも減少する事態も発生した。
ミラー族は、他の餌を求めて行動を変えた鯱や鮫の強行を阻止するべく、繰り出すのだが、全ての仲間が揃わずして戻るのは何も珍しくなかった。
嘗てない速さで生じる人為的気候変動は、南に棲息する生物を北へ移動させた。
ワカメやコンブなど肉眼で捉えられる大型の海藻を食害した後に、サンゴ主体の生態系への変化も見せた。
ミラー族は、その環境にとって適した変化であるかを判断してきたが、凄まじい速さの異変はもはや大波に等しく、彼等は務めに追われていった。
船舶による運航や漁業も盛んになり、ゴミや油分、排水の量が増えると、それらの回収と抹消、海水の浄化に徹した。
また、ガラクタを再び岸へ返す事で陸での回収も促した。
絶えず海を渡り、巡り続ける海の神もまた、休む事なく魔力の渦を巻き起こしてきた。
大海を巡回する最中、食を求めて襲いかかる大海獣によって失われた命を忘れた事はない。
務めを果たす中で負った深手の痕は消えなかった。
海流や水温の変動に耐えられなかった命を思うと、憎しみや焦燥を抱く時もあった。
それでも尚、未来への不安や恐怖に屈しかけながら、鰭を動かし続けた。
当時の苦労や痛み、焦燥が、コアによって悪戯に浮遊する欠片に映し出されていく。
シャンディアはこれに憤り、誰よりも先に鏡のブーメランを放つと、さらされる自分達の過去を人々の目から遠ざけようとした。
胸痛は止まず、全身が痺れる様だった。
心の奥底に隠していた感情や過去の事象に、心を亡くすほどに攻撃を放ち続ける。
シャンは、欠片を打ち消そうと血眼になるシャンディアを抑える。
また、彼女に続いて同じ様に焦りを見せる仲間達に鎮まるよう、眼光を放った。
シャンは未だ宙に残る欠片を睨め上げるも、その先で睥睨してくるコアに何も言い返せなかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非