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※1350字でお送りします。
自然科学要素を、空の神の視点で語ります。
空の神が見たのは、狂奔して飛び回る己の姿と、押し寄せる世界の異変だった。
活発な人間活動によって上昇し始めた世界の気温は、気候変動を招いた。
海水温が上がり、氷河が溶けだした事で海面上昇が起こると、小さな島は浸水の危機に晒された。
多くの住民が、移転や避難、立ち退きを余儀なくされ、故郷を去った。
陸地の浸水によって引き起こされる塩害や、地下水に海水が侵入する事で、飲み水の確保が難しくなる。
その様なリスクを避けようと、神々は各所で滞りなく動き続けてきた。
精霊達は、上昇した海水温より発生した大量の水蒸気の解消に務めていた。
ハリケーンや台風、集中豪雨の頻発、洪水や高潮といった水害を防ぐ事で、陸の生命を維持してきた。
しかし気温上昇は減るどころか増すばかりであり、異常な雨量を招く一方で旱魃も相次いだ。
生きるために育てた作物が枯れ、収穫の大幅減少が起こり、経済に影響を及ぼした。
川の水が減り、船舶の運航の際は積荷を減らさざるを得なくなった。
更には水力発電が低下し、テクノロジー開発に遅れをきたした。
続く乾燥の回避に追いつけなかったが故に、熱帯林火災が起き、大量の煙や煤塵が放出された影響で、大気汚染が生じた。
有害物質に犯された精霊達は、飛翔力や火を噴く力を失いかけるだけでなく、汚れた空気に呑まれて命までも失いかけた。
しかし間髪入れずに襲いかかる異常気象は、偏った雨量により衛生状態を悪化させ、主に蚊を通じて感染症が広まった。
化石燃料の燃焼のほか、至る所で放出され続ける汚染物質が増えるにつれ、地球が熱を宇宙に放出できなくなり、大気中に熱が蓄積していった。
植物や森林が伐採される事によって、植物で蓄えられていた水が失われ、水不足を招いた。
同時に、大気を浄化する役割も減った。
精霊達は、数十億と増え続ける生命の維持に務めるべく、空気の浄化と天候の安定に身を粉にしてきた。
海面上昇によって限られた飲み水が失われないよう、熱された地表や大気を冷ますために飛行を繰り返し、風を上手く捕まえながら空気循環を続けた。
竜達は大量の雲を操り、太陽を覆い隠す事で海や大気の温度を下げ、海の酸性化の防止に務めていた。
また、集めた雲の中に氷粒を蓄え、それらが打ち合う現象から電荷を貯めた。
雷や落雷を引き起こす事で植物に必要な栄養分を与え、成長を後押しした。
世界が眠る事を殆どしなくなると、空の神はただ務めに追われ、迫る熱気や汚染物から逃げる様に魔力を放出し続けた。
空の神が身を削る思いで飛行を繰り返していた日々や、その最中に負った疲労、抱いてきた恐怖心や不安に混ざる怒りや焦燥が、コアが操る欠片に浮き彫りになる。
リヴィアはこれに両拳を握り、全身を震わせ、胸を抉られる思いに駆られた。
空や大気の目まぐるしい変動に敗れた仲間もいる。
守り切れなかった悲しみは、後に憎しみに変わる事もあった。
大気を蘇らせるために、生命や仲間の心を休めるためにある歌すらも、喉が嗄れて歌えずに終わる事も珍しくなかった。
精霊達は、欠片がさらす過去の自分達の姿を打ち消そうと刃を振るい、矢を放つ。
それらが掻き立ててくる腹立たしい感情や、心を亡くすほどに宙を舞う辛さが、人間の目に触れてしまう事を恐れ、只管に薙ぎ払い続けた。
コアに何も言い返せないまま、ただ、我武者羅に。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非