(16)
コアは、迫る鏡の壁に眩暈がした。
囲んだ者の過去と未来を映し出す鏡の壁は、これまでコアが直接的に受けてきた事象の数々を矢継ぎ早にさらした。
容赦なく押し寄せる爆撃機や、地雷による攻撃音。
それによって消し飛ばされる生命の嘆きに、胸が裂かれる思いだった。
膨大な焼却によって立ち込める煙に、目が眩んだ。
それによって熱され続ける地表と海に、嘔気を催し続けた。
方向違いに徹された解決策から生まれた偽善や、そもそもの反対の声の鋭さに、矢も楯も堪らなかった。
それらの思い出に、沸々と笑いが込み上げる。
疼く胸の痛みを通り越して、哂い、嗤い放った。
そして鏡の壁が、身体の半ばまでを圧迫した次の瞬間、コアは静かに嘲笑する。
この時、同時に沖を見た4人は反射的に悟る。
瞬いた途端、辺りから音が失われた。
時が止まったと疑わせる状況が生み出された時、来る――
コアは手にしたままの球体を麓に叩きつけると、迫る鏡の壁を打ち砕き、宙に飛散させた。
それを追う様に、遅れて太い水柱と飛沫が上がる。
神々や人々はこれに、漸く時が追いついたと錯覚させられた。
凄まじい風圧によって、島に立てられた鏡の帳が呆気なく破壊されてしまう。
風に横殴られた人々は、高台から海に飛ばされていく。
頃合いを見て木の上に避難していた4人と、彼等から離れようとせずにいた子ども達は、互いに腕を掴み合った。
しかし風力に抗いきれず、ケビンからウィル、クロイ、リサと次々に風に持って行かれてしまう。
「ダメよーっ!」
弾みで叫んだシェナの声に、風向きが変わった。
コアが引き起こした風とは明らかに違うそれは、別の方角から吹きつけると人々を高台や島に押し戻そうとする。
これを瞬時に嗅ぎつけた竜の使者達は、人々が着水するや否や宙に引き上げた。
小さくて軽い子ども達は、誰よりも遠くまで吹き飛ばされており、使者達は彼等を下手くそに掴み上げて飛行する。
「ひゃああっ! しゅかーと! しゅかーとっ!」
片足だけを掴まれて宙吊りになるリサは、さらされかける股を必死に隠した。
「たかすぎるよ! おろして! ぼく およぐっ!」
襟首から掴み上げられたウィルは、竜の飛行に涙ながらに訴える。
「わああジェド! ジェド、おろしてって いってくれ!」
ケビンは腰から掴み上げられ、特に乱暴に扱われていた。
激しく上下し、横揺れもしばしば起きている様子から、どこかわざとらしい。
ジェドは木の枝を伝って手を伸ばす一方で、荒くれ者の竜達に首を傾げる。
悪戯している様だが、これは安心させようとあやしているのではないか。
だがクロイは唯一、優雅に飛行していた。
身体能力が高い彼女は、同じ様に片手だけを掴み上げられて痛い目に遭っていた。
それでも竜の足に上手く攀じ登り、そのまま首に腕を回すと、荒ぶる翼の合間を縫って背中に乗っかって見せた。
「んん~、いいもんだわね。なに ないてるの?
みんな のぼりゃいいのに」
真下では、似た様な目に遭う大人達が速やかに着地していく。
子ども達はそのまま、元居た4人がいる木々に導かれていった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非