(1)
柔らかで心地よい砂の上に、少年は大きく仰向けになっている。
手にしていた長い木の枝を放り出し、目を閉じて意識的に波の音を聞いていた。
太陽が徐々に傾き、夕陽に変わろうとしているのを瞼越しに感じる。
夏ほどではないが、天気が良いと暑い。
日焼けに弱かった肌も少し丈夫になり、痒みは一時的でその後は沈着するようになった。
仄かな食事の香りが鼻腔を擽る。
いつもの焼き魚に加え、今日は魚介のスープもある様だ。
直接見なくとも匂いですぐに分かる。
ホタテを使っているのだろう。
随分獲れたと話す大人達の声がよく聞こえていた。
もうじき手伝いで呼ばれる気がする。
今日はそんな気分になれなくて、朝から逃げる様に独りでうろうろしていた。
時々見る夢で、また耳を劈く様な音がし、驚いて目覚めた。
例えようのないそれは、岩を打つ波よりももっと衝撃を感じるもので、刃物や槍を強く打ち合うものよりももっと不快な音だ。
何かが破裂する音ではないかと思う。
その後は決まって、焦げ臭さが漂うのだった。
驚いて目が覚めるものだから、決まって寝不足になる。
しかし世話をしてくれているカイルや彼の奥さんは早々に働いており、自分だけがいつまでも寝てはおれずに起きてしまう。
そして共に過ごす、同い年なのかはよく分からないが碌に口を利こうとしないビクターは、大抵いない。
人をあまり寄せつけようとしない彼は、食事の時こそ顔を出すが、多くは独りで行動していた。
本当は何をしているのか、何を考えているのか色々聞き出したいところだが、どうも自分よりも圧倒的に常に機嫌が悪い。
物を取る時さえ少々手荒だ。
こちらは何もしていないというのに。
だから近寄り難い。
とは言え何だか放っておけず、考えない日はなかった。
同じ家に居るからでもあるが、彼にも両親がおらず、同じ拾われの身だそうだ。
なので、独りになろうとしたり尖ってしまうのは、少し分かる。
溜め息を吐くと、頭を砂に擦って押し付ける。
寝床よりも気持ちいい白砂に、このまま夢の世界へ誘われそうになる。そこへ
「わっ!」
「わあっ!」
少年は思わず頭を上げると、額に衝撃が走った。
骨同士がぶつかる鈍い音が頭に響く。
甲高い声が、唐突に投げられた小石の様に顔の真上に降りかかった。
現れた少女はたちまち額を押さえ、尻もちをついた。
痛そうに蹲っても、それはほんの一瞬だ。
砂に塗れ、少々湿った黒髪を揺らす彼女は、四つん這いの姿勢に素早く変わると笑った。
「ジェド。なみに、もってかれるわよ」
「うるせぇな、またおまえかよ」
「おまえじゃない。フィーオっ!」
何がそんなに面白いのか。
フィオと名乗る少女は、不機嫌に顔を歪める少年ジェドを見て笑うばかりだ。
汗でそこら中が砂だらけだからなのか、しかしそれは彼女も変わらない。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非