(10)
「いい加減にしろ、ジェド!
言ったろう、いなくていい理由なんてない!」
けれども、グリフィンの言葉はジェドの逆上する獣の声に掻き消されてしまった。
これに慌てたジェドは皆から大きく引き下がると、今にも毟りそうに髪を握って俯いた。
どの言葉も逆撫でしてくる。
頭では、豹変した自分を大人達が抑えにかかる映像が巡り巡っている。
それが、自分がいなくてもいい理由に十分匹敵する様にしか思えず、孤独の波に呑まれかけていた。
リヴィアはジェドの異常な血の流れの速さを察すると、彼に短く威嚇を放った。
ジェドはその声に胸を引っ掴まれた様に顔を上げ、変わり果てた瞳が瞬時に戻る。
「役に立てるくせに……止めろよ……」
ビクターの声がふと、沖の乱闘の音に紛れて零れ落ちた。
3人はそれを振り返るや否や、言葉を失う。
視界は、これまで導いてくれていた友達の覇気が薄れた姿で満ちていく。
「俺はおかしなもんが見えるだけで、お前等みてぇな、すげぇもんなんかねぇんだぞ……用無しはどっちだ……」
生き物の言葉を理解できた事などない。
どんなに声を上げても、都合よく風が吹く事もない。
目を閉じればただ眠り、夢を見るだけで、未来で何が起こるかを捉えられた事なんてない。
景色の一部が妙に歪んで見えたりするのは幼少期からだった。
でもそれが、便利に思えた事なんて殆どない。
空島に昇って以降、それが役に立つ事が分かって嬉しくはなっても、今はその気持ちは崩れている。
皆を陽炎から避難させる事ができても、結局、それを打ち消す力はない。
できる事なんてちっぽけなのだから、大人がくれた言葉を上手く使い、皆を誘導できるようになろうとした。
揉めてもまたやり直せるように、挫けてもまた立ち上がれるように、どうすればいいかを考えてきた。
それが精一杯だった。
勉強ができない分、それくらいはできるようになりたかった。
人と纏まる事を嫌っていた自分は、その良さを知って変わる事ができた。
今では大事だと思えるそれを、この先も維持したかった。
尖っているままでは、世界は狭くなるばかりだろうから。
震えて突っ伏すビクターを見たリヴィアは、小さく息を吐く。
4人は異質であっても人間の子に変わりはない。
そんな彼等を纏め上げるなど、神に務まりはしない。
同じ人間であり、親として在り続けてきた大人達や、今でも冷静さを保とうと戦うビクターでしか成し得ない。
4人が持つ愛情は、もっと別の方角に向けられるべきだろう。
それがどこなのかを見つけられる事こそが、彼等の本来の力だ。
ただ未来を決めるためだけの存在ではない。
もうじき、それに気が付くだろう。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
気が向きましたら是非