(9)
それをビクターが追い越すとフィオの肩を掴み、前に回り込んで目を合わせる。
「どうする気だ」
ビクターは、フィオが皆の腕を振り解いた際に、嫌な潔さを感じていた。
彼女の、何かを噛み締める引き攣った顔には、先走っている様な勝手な決断が窺えてならなかった。
独りで別の方角を向こうとしていると分かった途端、身体が勝手に動いていた。
思い込みで決断をする事がどういう事なのか、幼い頃の自分を通じて知っている。
今度は自分が、友達を振り向かせたかった。
「言え! 何考えてんだよ!?」
フィオの考えが見えないあまり声を荒げた時、彼女は漸く、赤らんだ眼で掌を突き出した。
「飾り、返して」
その発言に慌てる3人の傍で、リヴィアが顔を強張らせる。
フィオの中で、人の血と共に流れるミラー族の血が騒ぐのを匂いで感じ取った。
「先に答えろ、フィオ……俺等を見て、ちゃんと言えよ!」
「魚なのよっ! 私っ……ここにいられないっ……」
刹那、フィオは瞬く間に張り倒された。
「バカ言うんじゃないわっ!」
シェナが息を荒げて全身を震わせながら放った時、白砂が熱風と共に激しく舞った。
「どうすれば一緒にいられるか、あんたは考えられる筈でしょうがっ! こんな時に何で言わないのよっ……何でいつもみたいにっ……大丈夫って、言わないのよっ!」
シェナの身体は突如、間に割り込んだグリフィンによって抑えられた。
しかし彼女はその手を引き剥がすと、変わり果てたフィオを今にも引っ叩こうと乱暴に詰め寄り、跨ろうとする。
フィオは顔を険しくすると、シェナを半ば蹴る様にしながら押し返し、立ち上がった。
「一緒にいちゃ危ないわっ! それに、このままここにいても解決しないっ! 飾りを返して、ビクター!それは私のよっ!」
フィオがビクターに掴みかかろうとした次の瞬間、2人の間に細い稲妻が落ちた。
駆けつけた他の大人達や4人は、水を打った様に静まり返る。
リヴィアは、弱々しく曲がる人差し指を静かに引いた。
最悪の光景を焼き尽くしたいばかりに放ってしまったが、こんな無力な落雷1つで解決できる事ではない。
4人は今のままでは、先を決められない。
フィオの決断が本意でない事もまた、見え透いていた。
「ああ、そうかよ……なら俺こそ……俺はいつ、誰を殺すかわかんねぇんだぞっ!? 俺こそ、いなくていいだろうがよっ!」
ジェドの怒りは最後、リヴィアに大きく向けられる。
血が上った途端に露わになる灰色をした獣の眼に、リヴィアは喉を締め付けられた。
彼の体内で生じる血の争いもまた、フィオと同じものだった。
このままでは、彼等の中にある判断力が著しく低下してしまう。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
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