(8)
暗い視界に広がる波紋が、今とは真逆の世界を映し出した。
青空に浮かぶ眩しい太陽に、つい目を背けたくなる。
透き通った大海原に漂う水面の光や、波が岩にあたって飛沫の煌めきが舞った。
風が花を揺らして香りを立たせるところ、これまで、どこかからずっと聞こえてきていた誰かの笑い声が、心地よさをくれた。
「「フィオ!」」
島の皆の声に、フィオの瞼が弾かれる。
すぐ傍には3人がおり、大人達がその場を囲む様に覗いていた。
その向こうにはリヴィアが、白い光に輪郭を灯しながら青い眼を向けていた。
呆然としていたフィオは慌てて首筋に触れる。
緑をした毒々しい呪いの血が傷ごと拭われ、自身の肌を取り戻していた。
シェナはフィオの傷の回復を目にするなり、彼女に大きく飛びつき、抱き締める。
その後ろから、大人達が安堵しながらフィオに何度も触れた。
そしてそのまま、4人を島の奥へ導き避難に移ろうとする。
だがジェドがその輪から抜け出し、コアの元へ飛び立とうとするリヴィアを引き留めた。
「傷を治す事しかできないのか」
友達が何か、はっきりしてしまった。
呪いを払拭できても、その事実は残ったままで、ジェドは困惑のあまりリヴィアに縋る様に近付く。
自分と遊んでいて、楽しいか。
初めてフィオと仲良くなれた瞬間を思い出した今、ジェドは彼女に問いたくなる。
ミラー族の元へ帰る事がいいのか、と。
そこで生きていく事は幸せなのか、と。
やっと目を開けたフィオを見ても、その不安は解消されなかった。
シェナが抱き締めても抱き締め返す事はなく、結局は自分達と目が合わない。
傷が癒えても嬉しそうにせず、何も言わない。
近くで散々見てきたから知っている。
明らかに別の事を考えている様子が、どうしようもなく怖い。
彼女が決める事だと発言したビクターや、それをあっさり認めて消えてしまったシャンが、脳裏に焼きついている。
決められた何かがあるならば、それはもう覆せないのか。
覆しては、ならないのだろうか。
「あいつ見ろよ、知ってるだろ!?
あんな顔じゃなかった!」
ジェドは半ば浮かびかかるリヴィアに詰め寄ると、彼女の衣を掴んで引き寄せた。
彼女の姿勢が崩れてしまおうが、構う余裕はなかった。
沖からは、コアが其々の戦士達を振り払いながら笑うのが聞こえる。
援軍が来ても状況は変わらず、激戦区の皆やリヴィアは、晒される現実に焦るばかりだった。
その時、フィオまで皆の輪から抜け、何を決めたのか、背筋を伸ばしてジェドとリヴィアに近寄る。
「フィオ!? フィオ待って、待ってってば!」
シェナは堪らず声を上げ、追いかける。
やっと傍に来たというのに、またしても離れてしまう彼女が恐ろしくてならなかった。
友達が違う世界の者であるならば、ここに漂流した自分もまた同じだ。
それでも、共にこの島でやってきたではないか。
今、この窮地を皆で乗り越えて、もう一度笑って暮らしたい。
暮らしていける筈だろうと、フィオをすぐにでも振り向かせたい一心で、走った。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非




