(4)
シャンの涼し気な顔に逆撫でされたビクターは、槍を握り直すと怒りを懸命に吞み、睨みつける。
「分かんねぇ事言いやがってっ……
大体、フィオの人生だろうがっ!
どう生きるか、本人が決める事だろっ!」
「いいだろう」
張り詰めた空気がふと溶けた。
シャンは槍を消すと、あっさり背を向けてしまう。
彼の急な態度に、ビクターや後の2人の武器を握る手が緩んだ。
「仰せのままにだ。いずれにせよ、もう決まってる」
シャンが離れていくにつれ、これまで動きを見せなかったフィオがふらふらと足を進めた。
3人や大人達は、焦りに勝手に身体が動く。
「フィオ待て!」
ジェドは反射的に彼女の肩を掴むも、乱暴に弾かれてしまう。
そこへ間髪入れずにビクターが腕を取り、シェナが脇腹の生地を引っ張った。
「行かないでよフィオっ!」
どうせ魔法を使ったのだろう。
腹立たしい魔法が彼女をミラー族に誘き寄せているのだとしたら、引っ叩いてでも解いてやる。
3人はフィオの歩みを止め続けた。
そこに駆けつけたグリフィンの腕が加わると、フィオと目を合わせようと顔に触れようとする。
後からはグレンやレックス、カイルにマージェスの声が続いた。
皆は彼女に、こちらを向けと引き留める。
何故、顔をそんなに隠してしまうのか。
腹が立ったジェドは、いよいよ両手でフィオの肩を掴むのだが
「止めてっ!」
フィオは皆を大きく振り解いた反動で、真正面を向いてしまった。
不意に広がる髪が晒したものに、シャンとシャンディアまでもが絶句する。
「おま……」
ジェドは血の気が引いた。
自分はあの時、止めた筈だ。
フィオが呪いの人魚に爪で切られる前に、何としてでも止めようとした。
その一心で走り、鰭を貫いて間に合った筈ではないか。
彼女の左の首筋に沿って、胸元まで縦傷が刻まれていた。
毒々しい緑の肌が広がり、泡が沸々と弾けて沁みている。
ジェドは視界いっぱいにその傷が焼き付き、脈が速まる。
人魚の攻撃を防ぎ切れなかった自責の念が、言葉や行動になるよりも先に体内を巡る。
自分が間に合わなかったせいで、友達が呪われた。
フィオは傷に触れた手を見下ろすと、緑に塗れたそれに青褪め、より痛みが増していった。
シャンは、特定できなかったフィオからの違和感の理由に黙ったまま納得する。
何かを決して見せるまいとする隔たりの様なものを感じていた。
一族にまで呪いの傷を負った事実を隠し通せたのは、母の血によるものだろう。
今や圧倒的に力を宿したフィオが更に一族の魔力に触れれば、その身は今度こそ――
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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