(3)
皆の記憶から抜け落ちていた、フィオの母親の記憶。
歪である理由が繋がろうとする中で、東の住民達は声を失くした。
「其方の母は陸の生命の危機を案じ、禁忌を破る決断をした……そうしてでも守り……愛したいものができたが故にだ……しかし」
シャンは未だ何も放たない長老に向き直る。
長老は凍りついた様になりながらも、どうにか首だけで微かに否定して見せた。
「何においても代償はつきものだろう、長殿。こちらも世の生命を守るためだ」
それでも、受け入れられなかった。
「シャンと言ったな……その子の父親は、これを認めた上で死んだかっ……その子の母は、何と言い残したっ……その子の両親は、シャンっ! お前達一族に帰すよう、言い残したのかっ!?」
溢れ出た感情が、長老の胸を激しく打ち続ける。
だがその発言はシャンを揺るがしもせず、冷たい視線に逸らされていった。
フィオにも後の3人にも留まる事のない光の眼は、遥か沖で空の神と戦う一族に向くと、焦りが滲みだす。
「先代は許しやしない!」
再び脚を持ったシャンディアは銀に灯る眼を尖らせ、シャンにこれまで以上に噛みつく。
「フィオは一族で守るべき生命を想う一方、ここの人達を家族として愛してる! この子達の力があって私達の今の姿があるというのに、傷つける様な事をしないで!」
途端、シャンは肩に掴みかかるシャンディアを押しやり、眼光越しに睨みつける。
「傷つけるな……? こちらの言葉だろうっ……!」
震えるのは怒りか、それとも悔いか。
顔や眼差しに滲む多くの感情は、どれも決して心地良いものではなかった。
もう2度と惨劇を繰り返さないための選択を、誤る訳にはいかない。
「従者ならば揺らぐな、シャンディア……お前は神だ、見極めろ……この騒動の発端が何かをっ……」
その時、止まれというグリフィンの叫びを掻き消す様に、駆け足の音が接近した。
シャンが振り向いた矢先、ビクターとシェナ、そしてジェドがこれまでにないほどの剣幕で彼に襲い掛かり、槍とナイフの鋒がそこまで迫る。
しかし、シャンは2本の槍でそれらを軽々と撥ね退けた。
3人の一本調子の我武者羅な攻撃は、あっさり地面に打ちつけられる。
「静まれ……お前達を痛めつけようとしているのではない……」
それでも尚も立ち上がろうとしたジェドに、シャンは透かさず槍を向けて制止した。
「その腕、聢と見せてもらった。
後は我等と、その子で片す」
「黙りなさい! あたし達の友達よっ!
どこにも行かせないわっ!」
シェナはシャンに砂を蹴って吠え飛ばすも、彼は相手にせずビクターに眼を尖らせた。
「渡してもらおうか」
「嫌だって言ったら?」
ビクターは、疾うに知られていた飾りの在り処を、腰を引いて遠ざけた。
「その子が許さんだろうな」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非