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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
最終話 地球と人の未来のために
152/154

(14)




 テーブルに墨が転がる。

そう長い文章でもなかったが、随分と時間をかけた様な気がして、大きく息を吐いた。

ジェドは、肩越しにそっとフィオを振り返ると、書き上げた1ページを差し出す。




「何だよ」




急に現れたビクターの声に、2人の肩が跳ね上がる。

ビクターは、ジェドがフィオと同じ様に書き物に徹するので、気になってやって来た。




 ビクターが先にそれを取り上げると、フィオは、追いかける様に彼の手元を覗く。




「何だっけ……詩って言うんだったか?

お前、洒落た事すんのな」



「いや、俺じゃない」




ジェドは、端の2人を見向きもせず、宙を見たまま静かに呟いた。




「……あんたが書いたわよ?」




フィオは、ビクターと共にジェドを見下ろし、目を瞬く。




 ジェドは、何かを言おうと振り向くのだが、案の定、記憶は薄れてしまった。

忽ち、絶望が滲む目を逸らしてしまう。




 ビクターは、昏くなる彼の肩をそっと取ると、笑いかけた。




「また思い出せる。そうやって繰り返してきただろ。

書き残せたんだ、こいつは残る」




 刹那、突風がドアを軋ませ、部屋を大きく舞った。

フィオとジェドは倒れかけたランタンを押さえ、ビクターは手にする貴重な記録を力いっぱい掴む。

何の風かと、3人が入り口を振り返るや否や、声を上げた。




「シェナ!?」




不意に現れた彼女は、外を指差す。




「ねぇ、陸が見える。

でも、カイル達が言ってた停泊地と違うみたい。

どうする?」



「お前いつ来たんだよ!? 足音もしなかったぞ!?」




ビクターのそれに、フィオとジェドも呆気に取られながら頷く。

しかしシェナは、そんな事よりもと被せながら、皆を連れ出した。








 そこは、秘密基地の孤島と広さが似ており、木々が生い茂っている。

事前に教えられている停泊地はもう少し先の筈であり、聞いている特徴とも違っていた。




「何だ? 所々が緑に光ってやがる」




ジェドが目を凝らすと、フィオが、何だったかと頭の引き出しを空け散らかす。




「ほら、お尻が緑に光る虫」



「ああ、(ファイヤーフライ)か」




ビクターのそれに、フィオは指を突き立てた。




 4人は顔を合わせると、悪戯な笑みを浮かべる。

人が居るのか定かではないが、シェナの故郷とは思えない。

未開拓で、小さな場所であれば、下りてみてもいいのではないだろうか。

というよりも




「行こう!」




心細さも忘れ、好奇心が勝った4人は、停泊作業に入った。




 彼等が、騒がしく通過していった時。

網や船縁、見張り台の柱にロープ、帆の端に、昆虫が羽休めに訪れた。

急げと騒ぎ立てる楽し気な声が、下の階から溢れるにつれ、蟲達の眼は、濃い緑を放つ。






 空になった船室は、小さな足音でも、よく響いた。

突風で散らかったページや墨、驚いた拍子に倒れた椅子に、細い蔦が幾つも這い進む。

それらは、だんだんと太い根に変わると、散らかった物を定位置に戻していく。

そして、蔦が、ある1ページを持ち上げると、主に運んだ。




 辺りに這い伸びた蔦や根は、主の身体に戻っていくと、手足に変わった。

テーブルを覗き込むほどの背丈が、植物が体内に戻るにつれて、そこを見下ろせるまでに伸びていく。




 真下から、彼等の楽し気な声が、わんさか立ち込めた。

それらが、彩り豊かな声の光に変わると、忽ち身を擽られては、腹に集まっていく。

1つ1つが持つ温もりが力に変わる事で、その背丈は、大人に近付いた。




 白い微光を散らす(はね)を、僅かに揺らすと、手にしたページを眺める。

読み進めるにつれ、淡い緑の眼光を灯すと、小さく指を鳴らした。




 細い蔦が、残りのページを纏め上げると、主が手にする1枚が、最後尾に滑り込んだ。

蔦は、片端をみるみる縫い、幾多ものページを綴じていく。

一方で、主の腹から、虹色の光が引き出されると、仕上がった束の表面に落ちた。

優しい、小さな笑い声を溢した途端――翅を広げ、蟲の羽ばたきと共に、次の行き先へ向かった。




 翼を持つ竜と共に刃を扱う飛行者と、海洋生物と人魚が遊泳する姿が描かれたそこに、蔦の文字で、

Immortal(不死の) Legend(伝説)”と残して――




挿絵(By みてみん)









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


次ページ「エピローグ」「あとがき」へ お進み下さい




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