(12)
舳先に腹這いになるビクターは、遠くを眺めている。
そこに長くいられるように、わざわざ平らに作っていた。
その大切な居場所で、大人達から聞いてきた、嘗ての話を思い出す。
何事も過度に行えば、どこかで負荷が生じる。
何かに大きく偏り過ぎては、もう一方で気にかけるべき事に、力を出せなくなる。
自分が成長すればするほど、世界が広くなればなるほど、旅に出れば出るほど、1つの事だけに目を向ける訳にはいかない。
そう思っていても難しいという事を、出発前のグリフィンは言いたかったのだろうか。
自分達がしたいと思っている事に、できっこないと言う誰かがいるだろう。
自分達が熟すだけでは、変わらないと思う時もある。
だが、そう思い続けてしまうと、それこそ変わらない気がした。
海の割合が増えた世界で、当たり前の様に生きている。
大人達は、嘗ての世界の再来を願っていた。
自分達も、それを見てみたいと思う。
それに加えて、当時よりも優しい世界になるよう、願っている。
大人の仲間入りをしたばかりの自分達の心は、まだ幼い。
そんな自分達が語ったり、描いたりするものが、これまでの様に、真っ直ぐ通じるばかりではない。
そんな事もまた、グリフィンは意識させたかったのだろうか。
面倒な事ばかりが続き、構うべきものに構う余裕がなくなり、自分の事だけで精一杯になり、そういうものだと流れていく。
そんな生活を送っていた時を振り返る大人達の顔は、あまり楽しそうではなかった。
それを見て、漠然とだが、もっと楽しい世界にできないだろうかと思う。
大人達の中には、この世界に生まれ落ちた自分達を、気の毒に思う者もいる。
だが、それは違った。
自分達は、この生き方に確かな幸せを感じている。
家族や友達がおり、火があり、水や海がある。
自然によって、自然と生かされている事は、ありがたい事ではないだろうか。
仰向けになると、月と目が合った。
そこから引き出されたのは、いつか聞いた、ライリーの言葉だった。
一度、世界がなくなればいいと思っていた時がある。
それが叶い、ホッとしたことがある、と。
共に聞いていた長老は、それに対し、長い沈黙を生んだ後、そうかもしれないと返していた。
意味深な2人に、何を言う訳でもなかったが、内心、身震いしていた。
壊れてしまった方がいい世界も、人も、本当はない筈だろう。
それでも、壊れてしまったのだ。
それをどの様に修繕し、新たに作り上げるのかは、言うまでもなく、残った生命や環境次第になる。
こうして思いを巡らせる事もまた、容易い。
自分が勉強を遠ざけるために、あらゆる言い訳や、逃げる作戦が思い浮かぶ様に、やらない理由やできない理由は、簡単に浮かんでしまうという事も教わった。
それを噛み締めているからこそ、こうして旅に出ている。
もっと、世界を知るために。
誰かの声を聞き、環境を見るために。
見てきた断片的な夢を振り返ると、身体が疲れたり、妙に力が入り、重くなる。
まるで、この場にいながら、実際に夢の中に入って動いている様で、疲労感や熱が湧く。
何故なのかは未だに分からないが、突き詰める事を諦める気には、どうしてもなれなかった。
するべき事があると教えてくれている。
今は、そう解釈している。
ちっぽけな自分達が、まず、やるべき事は、この旅を無事に終える事だ。
そして大きな、大き過ぎる夢だが、叶えてみたい。
生命と環境に深く関心を持ち、その声を聞ける世界の誕生を。
持続的に守っていくために。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非