(13)
※1400字でお送りします。
海水はフィオの顎下まで迫っており、もしシェナが落ちれば完全に沈んでしまう。
背丈があるビクターは迷わず、最も深い場所にいるシェナに駆けつけた。
だが、更なる波が4人に覆い被さろうと影を落とす。
堪らず叫んだ皆の声の中でも、シェナの声が最も突き抜けた。
刹那、波が上から押し潰される様に凹んだ拍子に、温かい大風が吹き抜ける。
4人はまるで砂や葉が舞うかの如く、筏ごと岸まで激しく転がった。
あまりに一瞬の出来事に声を失うのも束の間
「とんだわ!」
「みろよ、もうここにある!」
風に乗って浜まで転がったフィオとジェドは興奮する。
引き上げる手間が省け、2人は早々に修理に取り掛かった。
ビクターの動悸はまだ激しく続いている。
どうにかシェナと手を繋いだまま浜に放り出されていたが、彼女も動揺しており、波打ち際から慌てて這って遠ざかろうとした。
しかしふと、ビクターを振り返って立ち止まる。
「……なんだよ」
彼はそこで、はっと口を噤む。
彼女が話せない事を忘れていた。
どこかやりにくさを感じながら、何も言わずに立ち去ろうとしたその時、手を掴まれた。
シェナはじっとビクターを見上げては、両手で彼を思い切り引っ張り、共に座る。
「なんだよ! もう いくぞ」
「あーあっ!」
ビクターは目を瞬く。
シェナの泣き声や叫び声以外の声を初めて聞いた。
待てと訴えているのか、彼女はそのままビクターの腕に人差し指をこそこそと走らせる。
「おいやめろ! ははっ! くすぐってぇ!
はなせっ、たはははっ!」
そうしてシェナの腕を乱暴に解いてしまうのだが、この時、再び気が付いた。
何かを書いていたのではないか、と。
シェナはそれ以上ビクターに触れる事はせず、傍の湿って硬くなった砂地に、同じ様に指を走らせた。
ビクターは、決まった線が描かれていく光景に目を奪われる。
次第に形になっていく言葉は、正す事は難しいのだが、逆さまになっているという事は分かった。
それでも、何を伝えようとしているのかは明らかだった。
自分や後の2人も、最初に教わった言葉だ。
“T A И K Ƨ”
ビクターが口を開きかけると、シェナは小さな笑い声を溢し、そのままフィオの方へ駆けていく。
途中で躓く様子が、どこかドジにも見えた。
それに続く様に、海から柔らかな風が吹きつける。
肌を優しく撫で、白砂がその場を輝かせた。
「ねぇほら、だいじょうぶって、きこえるでしょ?」
「なにいってんだよ。はやくそっちくっつけろ。
ビクター!てつだえ!」
フィオの傍にいるようにと言われているシェナは約束を守りながら、小さくビクターに手招きした。
自分の筏の筈だが、ジェドがすっかり組み立てを仕切っている。
隣の孤島にはきっと誰も住んでいない。
ならば自分達で住もうじゃないかと、そんな計画も進み始めていた。
鬱陶しいと思っていた筈なのに。
いつも誰かと一緒に、だなんて。
でもそれは、ただの食わず嫌いみたいなものだった。
どこかへ冒険してみたいと思うのは、1人だけじゃなかった。
ふと、マージェスの“ともだち”という言葉が浮かぶ。
ぼんやりとしていたその言葉の意味が、砂に刻まれた感謝の言葉と共に波に撫でられていく。
そうしてあっと言う間に消し去られてしまう事がないように。
刻んでもまた、刻み直せるように。
どこまでも丈夫に立ち、繋いでいられるようにせねばならない。
するべきだろう。
「うるせぇな! それ、おれのだぞ!」
ビクターは怒鳴る傍ら笑みを溢すと、友達と合流した。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非