(10)
「でも、そこで目が覚めた。
帰って来たのかどうか、分からない」
「君の隣には誰がいるんだ?
今朝、君が見送ったのは?」
アリーは、グリフィンを大きく振り返る。
と、半端な夢の終わりに囚われ過ぎていた自分を、笑った。
そのまま、顔を隠す様に余所見をする。
あの子達は戻る。
そう信じて、海を眺めると、途絶える事のない波の音に、火の粉が弾けた。
「何だか、冒険をさせられてる気分だよ。
皆が見た夢が、繋がりそうな気がする。
完成形がどんな風なのかは分からないが、年月をかけている内に、探しものが見つかる様な……上手く言えないが……」
「掘り出してもいいものかどうかも、考えてしまうわね。
否定はしない。
貴方や、子ども達がやる夢の繋ぎ合わせは、私も興味がある。
ただ、そこに隠されている何かは、本当に見つけて欲しいと思っているのかしら……」
グリフィンは、アリーの面白い見解に、墨の欠片とページを置いた。
こちらを見ようとしない彼女の横顔は、そこに浮かぶ月を見るよりも、吸い込まれそうになる。
「見つけてもらいたいと思っていても、やっぱり隠れてしまう。そうやって、私達を弄んでいるのか、それとも、そうする事で忘れられないように気を引かせているのか……振り向いて欲しいと思って目立とうとするくせに、いざ振り向かれそうになると、引っ込んでしまう……知られてからの事を思うと、結局、怖くなるのかもしれない……」
グリフィンは、話を噛み締めながら、波に目を凝らしていた。
だが、口元の手を退かすと、前屈みになっていた上体を徐に上げ、急にアリーを覗き込んだ。
肩を弾ませたアリーは、笑われると、止めろと言わんばかりに、彼を払い除ける。
「それが君の事なら、他にももっと聞かせてくれないか……」
浜に立つ松明が、流木に腰掛ける2人の影を、砂浜に揺らす。
アリーはいつからか、真っ直ぐなグリフィンの目を正面から見る様になり、安心感を得ていた。
多くは話していないが、今日まで、沢山の夢を見てきた。
中でも彼が、どこだか分からない暗闇に消えたり、砂に消えたりしてしまう悪夢は、眠気を遠ざけるほどだった。
その不安を打ち消すものこそが、目の前で共に生きている、彼自身だ。
じっと静まるアリーの中で、何が起きているかは分からない。
だが、グリフィンは、彼女が独りで心の整理をつけようとしていると分かっていた。
そうしているのだろうと感じる殆どの場合、自分がおり、必ずと言っていいほど、目が合う。
そして、その後、彼女は決まって微笑み、余所見をする。
結局、それを見てしまえば、どんな感覚でいるのかなど、聞く気になれなかった。
その代わり、夜風で冷えた細い手を取ると、そっと包む。
「今夜は長いぞ。あの子達も同じかもしれない。
だから俺達も、起きていられる限り起きて、話しておけば、寂しさも埋められる」
「伝説の始まりにしては、ちょっと昏い気がするわ……」
4人が成人したと意識するだけでも、目が潤んでしまう。
衛生状態も悪い僻地で、信じられない姿を見せてくれているのだから。
そして、果てしない大海に、彼等は出て行ってしまった。
地球と人の未来のためになどと、大きな事を言い残して。
「いや、寧ろその方が自然でいい。
人が語り継ぐ事なんだから」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非