(9)
その晩。
雲が、すっかりどこかへ取り払われ、月の周りには、星々が瞬いている。
4人がいない島は心細く、見送ってからの仕事は、あまり捗らなかった。
口にしても消えない気持ちは、食事中にも影響し、いつも賑わっている食卓も、波と火の音が主役になっていた。
虫の音を横に、漁師達は、レックスの家の玄関横に設けたテーブルで騒いでいる。
大きくなった子ども達が、あまり遊ばなくなったボードゲームを出し、どうにか、寂しさを誤魔化していた。
近くを通りかかったグリフィンは、遠目でそれを面白がる。
耳を澄ませると、どうやら、負けた者が昆虫を食べるという、子どもじみた勝負をしているようだ。
虫もよく見かけるようになり、昆虫食に挑む機会も増えたのだが、これは、なかなか気が進むものではない。
と、やけに大きな声がし、肩越しに振り返る。
どうやらグレンが負けたのか、身体を抑えられていた。
彼の口元には、こんがりと焼かれたコオロギが運ばれていく。
とんだ馬鹿騒ぎのお陰で眠れやしないと、仲間の怒鳴り声が横入りした。
グリフィンは、仕方のない彼等を鼻で笑うと、松明を手に林を進んだ。
もう片方の手には、出来上がった数枚の本のページと、墨の欠片を持ち、海岸を目指した。
ページになる薄い木材は、生薬として採られた余りの葉を磨り潰して糊に変え、繋ぎ合わせて作っている。
作業場で出たそれらを活用し、教材などに作り変えて使っていた。
夜は大抵、浜辺で思いついた言葉や、簡単な日記を書く事にしている。
しかし今夜は、別の事で寂しさを埋めようとしていた。
流木に腰掛け、夢で見たものを書き出していく。
子ども達も続けている事だが、グリフィンは、あまり彼等に見せる気になれなかった。
沈船に閉じ込められて出られないという、とんでもない悪夢を綴る。
だが、4人に助けられたという、ありがたい落ちのお陰で、目覚めは良かった。
こんなものが、本のネタになるのか定かではない。
それでも、もしかすると、子ども達にとっては、いい笑いの種になるだろうか。
考えを巡らせながら、もっと、夢の中に潜っていく。
壊れかけた誰かを、立ち上がらせようとしていた気がした。
それが誰なのかは分からず、顔もぼやけ、まるで、黒い霧の塊に向かって声をかける様だった。
助けたい、守りたいなどと強く言い放っていた。
それは、こんな人生を送るようになって多くを失ったがために、夢になって現れたのだろうか。
分からない誰かがどうなったのか、起きたせいで、結局分からない。
「今日は何を書いてるの?」
柔らかく耳に触れてくる声に、驚いた事はない。
アリーは、いつも気遣って、遠くから声をかけてくれる。
グリフィンにとって、夜の決まり事の、もう1つの楽しみでもあった。
毎度ではない彼女の訪れに、鼓動も少しばかり速まる。
「また可笑しな夢を書いてる。
でも、それが可笑しいって、やはり心からは思えない」
アリーは小さく頷きながら、彼の隣に腰掛けた。
彼女は、眩しいほどに輝く月を見上げては、そっと海面に視線を下ろし、月の反射光を眺める。
「あの子達、帰ってくるかしら……」
「……何だ、当たり前だろう。どうして?」
アリーは、近頃の夢の話を始めた。
荒海だというのに、4人だけでなく、グリフィンや漁師達もこぞって、戦いに行くのだと、出ていってしまった。
心配でならなかったが、その気持ちを晴らしたのは、青や銀の光を放つ流星の様な雨だった。
そこに時々見えた、燻んで汚れた光や、見ていて熱を感じる赤い光を、辺りに飛び交う流星や、海に出た皆が掻き消していった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非