(7)
いかに早く目標に近付くかを考える内に、手間に思えていた物事に隠されていた重要性を、忘れ始めた。
進む事ばかりを意識し、以前に取り組んでいた事の大切さを、置き去りにしていた。
そうして、自分自身や、仲間を失敗に巻き込んだ事もあった。
シェナは、少し俯きながら、真剣に話す。
「人も物も、場所も大事にするために、できる事を探したい。
生まれたら、使ったら、汚れたらそれで終わりじゃなくて。
どこにいても安心して、安全に生きられる。
そんな世界がいい」
皆は、いつか聞かされた彼女の身の上話を思い出した。
身体に枷をつけられ、働かされていたという痛々しい経験がある。
彼女は、その地を見つけ出し、止めたいと願った。
その願いは、皆の願いになり、今日という日を迎える事ができた。
グリフィンは、じっと耳を傾けながら、今日までを振り返っていた。
嘗ての情報や、持っている知識を4人に伝えてきた。
ただ海に出たいという気持ちや、新しい世界を見たいという気持ちだけでは、行かせられなかった。
この先、新たな人や社会に関わる可能性がある以上、漁業や戦術の他に社会や精神面を鍛えておきたかった。
以前の自分ならば、素直に4人を送り出しただろう。
しかし、目の前にいる彼等はもう、小さな存在ではない。
彼等の様に、真っ直ぐな考えを持つ人や、考えそのものは大事だ。
その一方で、そうして受け入れる人間ばかりではない事も、知っている。
この東の島も、南の島も、人に恵まれている。
ひた向きに取り組む4人を応援し、支えてきた。
幸いなことだが、その様な人間ばかりでない事もまた、痛いほどに知っていた。
「簡単に言うなぁ……」
この瞬間、たった独り、その様に言う者がいてもいい気がした。
グリフィンは、逸らしていた目を向けると、ポケットの中で手を握る。
「口で言うは易し。やれるもんなら、やってみろ」
彼の珍しい発言にマージェスが眉を寄せ、咄嗟に肩を取った。
グリフィンはその手に触れると、微かに見せた笑みだけで、冗談だと示す。
それでも、言っておきたかった。
自身が散々言われてきた言葉であり、言われる度に腹を立て、独りでもやってやると意気込んだ。
画面や書籍を前に情報を取り込むばかりの自分は、いつだって、座って話しているだけだった。
それでは変わらないのだと気付いた時から、足を運んで行動する事が増え、身体を壊してしまった事もある。
時に、鬼になれ――そうは思うものの、やはり性に合わなかった。
生やしたところで大した事のない棘は、あっけなく消える。
そして、顔を強張らせる4人に、そっと笑いかけた。
「そうこなきゃな……頼んだ……」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非