(6)
「戻りの事も考えろ。
ただ進むだけじゃ、漂流と同じだ。
引き返して出直すのも策だぞ」
グレンはどうしても、目先のものに突っ走る4人が、頭から離れなかった。
無茶苦茶な動きをするお陰で、山ほど悩まされてきたが、今はもう、その心配も殆どない。
そう素直に認められない自分が、どこか情けなかった。
「だから、大丈夫よ。
どれだけしごかれたと思ってるの!」
フィオは、今日まで漁師達に散々腕試しをされてきた事を思い出す。
この新船を完成させるまでに、膨大な時間と労力をかけた。
漁船と違い、自然災害に打ち負かされ、幾度となく修理を繰り返した。
海に出る度に、漁師の誰かが付き添い、動きも見られてきた。
あまりに横槍を入れられるものだから、放っておけと怒鳴り、大喧嘩もした。
だが、彼等の力が無ければ、この時間は訪れていない。
そして、自分達がいかに自然を軽視し、見えているものを安易に捉えているかという事が、身に沁みた。
「俺達はもうやれる。
帰って来るなんてそんなもん、決まってる」
ビクターが余裕の笑みを見せても、漁師達の表情は、ぱっとしない。
「で、他には? どんな目的があるんだ?」
この時グリフィンは、4人と揃って目を見開き、黙り込む。
不意に出た問いかけに、何故か、時を止められた。
そんな確認など、この子達にはもう必要ない筈だというのに。
口煩い事を言うつもりはなく、笑顔で送り出そうと思っていた。
しかし、何かがそれを妨げてきた。
4人は、共に何かを振り返ろうとするグリフィンから、互いを見合う。
先走りかける心の裾を引く様に、彼の言葉がブレーキをかけた。
厳しいものではない、無事に戻るための大切な確認に思えた。
ここまで様々な知識をくれた彼は、いつだって心を整えてくれた。
「生き物の命や自然の力は必要だって思うから、他の世界を見ながらその事をもっと考えてみたい。過度な消費を生まないためには、どうすればいいのかって」
フィオは両肘を縁に預けると、頭の中で繋がった言葉を慎重に伝える。
「決めたらそれきりとか、貫き通すばっかじゃなくて、状況の変化に目を向けたい。植物とか生き物は喋って教えてくれる訳じゃねぇが、それを見たり聞いたりしようとする事はできる」
ジェドは背中を向けていたところ、正面を向き、先ほど放った海鳥を思い出す。
「自然が多くの手間と時間をかけて材を作り上げるなら、俺達も、もう一度この世界で生きるために、そうする事を惜しむ訳にはいかない。形にするためには面倒はつきもんだが、本当は、面倒なもんこそ重要なのかもな」
ビクターが考えを口にする際は、決まってペンダントが手の中で転がり、小さく鳴っている。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非