(5)
「心配すんなよ」
口数が減ったジェドの低い声は、長老に届きにくかった。
しかし、この時は違った。
長老は、彼の声を一度で聞き入れると、口元を綻ばせた。
「大丈夫、すぐ戻るわ。お土産話もしたいしね」
「美味しい物が見つかるといいけど」
フィオとシェナは、互いを見合って笑うと、4人は長老を抱き締める。
アリーは逞しくなった彼等を見て、込み上げる寂しさを呑むのに、鼻や喉を鳴らしてしまう。
岸辺や桟橋に集まる人々は、4人を励まそうと、肩を叩いていく。
「旅なんて大袈裟な。ちょっとした出張だ。
仕事、忘れんなよ」
釘を打つレックスに、当たり前だろうと、シェナが跳ね返す。
島の皆は、海や、余所の島を4人に任せられるようになり、時の流れの速さを痛感した。
4人が航海を決めたと言い出した時、少々言い合いになった。
浅い知識と技量だけで、出来るなどと生意気な事を言ったものだから、尚更だった。
海を、自然を馬鹿にするなと、説得して止めようとした。
そうしてしまう一番の理由は、彼等の決断による衝撃を、無かった事にしたかったからだった。
一時的とはいえ、この子達がいなくなる現実を受け止められる自信が無く、戻らないのではないかと冷や汗が流れた。
また、その様な恐ろしい夢を、大人達は実際に見た事がある。
彼等が見知らぬ世界へ行ったまま、戻らない。
それも、ただ船で出かけたきりなどではなく、雷や海に存在を消されるという、奇妙な夢だ。
信じ難い、馬鹿げていると口に出すものの、心からそうは思えなかった。
だが、4人は成人と呼べる年齢枠に入った。
その姿を見ている内に、果たして、子どもなのはどちらなのか、と思うようになる。
嘗ての世界ならば、自分の目の届くところに、いつまでも子どもを置いていただろうか。
例えば、自分が子どもの頃は、どの様だったか。
その考えは、次第に、手放してくれた誰かが近くにいた、という事に気付かせてくる。
ただ、その環境が、島から大海原へ行くというルートであるが故に、違和感をすぐに解消できなかった。
「星と風をしっかり見ろ。
教えたルート、忘れてないな?」
カイルが念押しで告げるのを、もう聞き飽きたと言わんばかりに、ジェドが宙を手で煽ぐ。
漁師達は、行かせるならば、先に自らで確かめるといって強情だった。
送り出せる様に、徹底して未開拓の海を漁船で進み、ある程度の海図とルートを仕上げた。
とはいえ、何週間も空けた訳ではない。
間に点在する孤島がある事までは確認でき、途中停泊ができる地を押さえたまでだ。
人が住む新たな島には行き着いていなくとも、存在する可能性は否めなかった。
その理由の1つとして、比較的新しい樽など、ガラクタが浮かぶところを発見できたからだ。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非