(4)
いつ訪問しても、必ず火を見て腰掛けていた長老も、アリーや他の仲間の手を借りて、やっと移動ができる。
彼の中で、火を眺めて何かを想う事はルールであり、食後や寝る前は、必ず姿勢を整えねば口煩く急かすようになった。
その際は決まって、使えなくなった杖も求めるのだった。
青い瞳に炎を映すと、まるで、いつかの自分を取り戻す様に表情が勇ましくなる。
耳に胼胝ができるのも通り越してしまうほど、長い昔話を繰り返し、決まったところで笑い、悲しみを見せた。
「じっちゃん、これから行ってくるわね」
フィオをはじめ、ジェドとビクターに、シェナが顔を見せると、付き添っていた子ども達も並ぶ。
4人は、長老に優しく触れながら、こちらを意識させようと目を合わせた。
「なんと……アリー、今日はお客が多いな……」
始まった、とウィルが漏らすと、ケビンやクロイも溜め息を吐き、リサは小さく笑った。
朝一番に顔を見せたところだというのにと、言いかけるのを堪える。
長老は、緩やかに顔の向きを変えると、島に残る4人に目を見開く。
「いかんなビクター……またそんなもんを持ち出して……大事なもんだと言っとるじゃろ……」
「ちがーうよ、じいーちゃんっ!
これは仕事をするのに貰ったんだ!」
ウィルは慌てて説明するが、長老は、彼の持ち物から目を離さず、置いておくようにとばかり言う。
ビクターはつい、ウィルに苦笑いを浮かべた。
「いいえ長老様、ビクターはこっち。
その隣にジェドと、フィオとシェナがいるんです」
アリーの柔らかな声に誘われながら、長老は、前を向き直る。
彼は、成人した4人を見つめると、首を傾げた。
「ちょっと旅に出てくる。
シェナの元居た場所が、見つかりそうなんだ」
この話も何度目だろうか。
だがビクターは、いつも初めて知らせる様に、丁寧に話す。
こうしてずっと、彼に報告をしてきた。
自分達と同じ様に動けない彼に外の変化を知らせ、長い経験によって積まれた知識と見解を貰い、問題と向き合ってきた。
それもいつまで続くのかと、心のどこかで思ってしまう。
「ほう、旅とは……外国かね……そりゃあいい……行っておいで……」
外国と呼べるほどのものでもないだろうと、アリーと4人は、共に長老に愛らしく微笑む。
その時、ふと、長老が表情を変えた。
「沢山知り、経験しろ……身体に取り込め……その地の幸せが何か……その地の力が何か……補い合えるものが何か……よいか、共に行け。
ただ置いて行くのではなく……」
懸命に伝えるそれには勢いがあり、老いた瞳は、まるで炎そのものだった。
そこに順に映る4人の顔もまた、火を受け継ぐ様に勇ましくなる。
何か大きな決断をする度に、長老から多くの言葉を貰ってきた。
日々、目と鼻の先で共に過ごしていながらも、いつだって、その日が最期であるかの様に。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非